「守成は創業よりも難し」 後継社長が乗り越えなくてはならない試練

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数カ月前、当社の顧問先である引抜鋼管メーカーのA工業(株)(本社埼玉県草加市)の創立50周年記念の会に参列しました。

創業は、現社長の父親が「パイプの引抜加工・問屋をやりたい」といって、50年前に大手製造業を退職したことに始まります。

取引先、従業員、OB、家族が集まった盛大な式典で、現社長は次のようにスピーチされました。

「創業時、父はたいへんな苦労をした。まさに苦難の時代で、信用が無いため仕入先からは製品を卸してもらえず、販売先の倒産で代金が回収出来なかった。金融機関からも金を貸してもらえず、家に差し押さえの赤紙が貼られたこともあった」

こんな苦難を乗り越え先代は事業を拡大していきました。現社長は大学卒業後、10年余り地元金融機関に勤務し、将来を嘱望された優秀な金融マンでした。

しかし約20年前(平成6年)先代が体調を崩したことがきっかけで、母親の懇願もあって家業を継ぐことになりました。金融マンからメーカーに転じた現社長は、会社の実情・現場が分からず大変な苦労をしました。

当時、会社を知るために、取締役会はじめ社内の様々な会議に顔を出すことを先代から指示されたそうです。

1996年(平成8年)には先代は長年の夢であった最新の工場建設にも着手しました。
この建設のために30億円もの借入をしますが、現社長は後継者としてどうやってこの借金を返済するか悩んだそうです。

その後、2001年(平成13年)に先代からバトンを渡され社長の座につきます。

自分よりも年長で経験豊富な古参の役員もいる中で、社長就任当時は「なぜこんなに苦労しなければならないのか、後継者にならなければどんなに楽だったか」とさえ思っていたそうです。

まさに「守成は創業よりも難し」です。

こんな状況で経営に悩んでいたところ、尊敬している先輩経営者から
「君は愚痴が多すぎる。上手く行かないのをすべてまわりの環境のせいにしている」
とアドバイスされ、この一言で社長は眼が醒めます。

経営が上手く行かない一番の理由は、自分の考え方にある。
自分の覚悟が足りなかったのだと。
この一言で吹っ切れ、経営改革に着手することになりました。

社員に将来の姿を示すために経営理念を見直し「技術」「挑戦」「信頼」を経営の根幹に据えました。

2006年(平成18年)には幹部社員を巻き込んで「第二創業」の思いを込め、初めて中期経営計画を策定します。

更に、自動車メーカーの海外進出、部品の現地調達が進む中で同社も「第二創業」の決断として中国広州市に進出します。

そして、創立50周年を迎えた現社長が打ち出したビジョンは「アジアNo.1の引抜鋼管メーカーになる」でした。
パーティーの最後に同社の幹部10名が壇上に上りました。

次なる50年を目指してなんとしてもビジョンを実現したいと抱負を語る、社長を支える頼もしい幹部の姿でした。

この光景を見て、現社長は人財育成のプロだと確信しました。各社員の素質・能力を冷静に分析したうえで、更なる成長を後押しするポストを用意する。それが経営者の仕事であると社長は言います。

社長が自社の経営課題を発見する力に優れ、現場の従業員はその課題に取り組み解決することで自信をつける。
会社は成長する。
社長は次なる経営課題を現場に投げる。

まさに経営の好循環がこの会社には出来上がっているのです。
筆者は「良き経営者は良き教育者である」という持論を持っていますが、同社の社長はこの持論にピッタリだと思いました。

環境変化の激変、先の見通しのきかない時代だからこそ、中堅中小企業の経営者は常に現状に満足せず経営課題を発見し、その課題解決のプロセスで

人財育成に知恵を絞り実践すべきではないでしょうか。

アタックスグループでは経営者が幹部社員を巻き込んで、中期的経営課題を抽出、解決シナリオを策定するコンサルティングをご用意しています。ご興味のある経営者は是非声を掛けて下さい。
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筆者紹介

アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 丸山 弘昭
数百社のクライアントについて「経営のドクター」として、経営・税務顧問、経営管理制度の構築・改善、経営戦略・経営計画策定、相続対策・事業承継、M&Aなどを中心としたコンサルティング業務に従事。幅広いネットワークと数多くの実績を生かし、経営者の参謀役、「社長の最良の相談相手」として活躍中。
丸山弘昭の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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