私は、相続に関連して、お客様から、株価を下げたい、という相談を受ける機会が多いのですが、株価だけでなく、相続全体を見渡して考えなければなりません。
つまり、経営者の相続においては「相続対策」と「自社株対策」の関連をよく吟味する必要があるのです。
まず、「相続対策」は一般的に「納税資金対策」「遺産分割対策」「財産圧縮対策」に分けることができます。
それぞれの対策は簡単に言いますと
「相続税を払えるか」
「財産をちゃんと分けられるか」
「相続税を下げられないか」ということになります。
「相続対策」のこの3つの対策は互いに関連し合っています。
例えば、相続税は10か月以内に各相続人がそれぞれ現金で一括納付することが原則になっていますので、各相続人がどれだけの現金を相続で取得するのか、ということがポイントとなります。つまり「納税資金対策」は「遺産分割対策」と関連することになります。
また、相続税には「配偶者の税額軽減」という特例があります。これは、配偶者の取得する相続財産が1億6,000万円か法定相続分(法定相続人が配偶者と子の場合の、配偶者の法定相続分は1/2)のいずれか多い金額までは相続税がかからないという制度です。
つまり、配偶者がこの「いずれか多い金額」までを取得することにすれば相続税の総額を下げることができるということになり、この点で「遺産分割対策」と「財産圧縮対策」は関連することになります。
ただし、「配偶者の税額軽減」の利用は結果として配偶者の財産が増え、その配偶者に相続が発生した場合の相続税が高くなるということもありますので、相続対策の検討は必ず「一次相続(例えば夫)」と「二次相続(例えば妻)」をセットで検討する必要があります。
さらに、相続税が下がれば納税資金も減る、という点で、「財産圧縮対策」と「納税資金対策」は関連しているということになります。
一方、「自社株対策」は、一般的に「シェア対策」と「株価対策」に分けることができます。
「シェア対策」は、株主総会での議決権をどれだけ経営者が掌握できるか、ということであり、「株価対策」は、自社株の評価額をどれだけ低くすることができるか、ということです。
株価が下がれば自社株を経営者に集約しやすくなるという点でこの2つの対策は関連しています。
また、「シェア対策」は例えば相続税の納税資金調達のために自社株を手放さなければならないというような場合手放した後の自社株のシェアに留意して検討しなければならず、この点で「納税資金対策」と関連しています。
「株価対策」は株価が下がれば相続税が下がるという点で「財産圧縮対策」と関連しています。「相続対策」としての「納税資金対策」「遺産分割対策」「財産圧縮対策」、「自社株対策」としての「シェア対策」「株価対策」は、互いに密接に関連し影響し合っています。
従って、「株価対策」の検討だけではなく他の対策への影響も検討しながら判断することがとても重要です。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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