最近、経営者の方とお話しする中で感じるのは自社株を後継者に渡すことのお悩みがとても増えているということです。 これは、経営者の高齢化が一つの要因と考えられます。中小企業庁が10年ぶりに「事業承継ガイドライン」を改定し、スムーズな事業承継を積極的に推進しているのも、この高齢化への対策ですから、事態の深刻さが伺えます。
中小企業庁の調査によれば、中小企業経営者の引退年齢の平均は、67歳~70歳と高齢化の傾向にあります。 経営者が血のにじむような努力をして成長させてきた会社を次世代に確実に繋いでいくためには、引退年齢近くなってからではなく、早い段階で事業承継の準備をスタートさせることが不可欠です。
その際に大きな問題となるのが自社株の承継です。 相続財産の中でも、自社株は特殊な財産です。上場株式などと比べて、簡単に換金することができないにもかかわらず、その価値が著しく高くなることも少なくありません。
特にオーナー経営者の場合には、自社株の評価額だけで数億円になってしまうようなケースもよく見かけます。 お金に変えることができないのに高い評価額になるというのは、納税者目線で考えるとなかなか納得できるものではありません。
そんな中、6月19日に国税庁より、平成29年分の類似業種株価等の数値が公表されました。 類似業種株価等とは、非上場会社が自社株の価値を算定する際の基準となるもので、様々な業種の上場会社の株価、配当、利益、純資産などの数値をもとに算出して、国税庁がHPで公開しています。 平成29年度の税制改正で非上場株式の評価方法が改正されました。その中に類似業種株価等の算出方法の見直しが含まれていたことから、数値の公表が待たれていました。
非上場会社の自社株の評価は、会社規模に応じて「類似業種比準価額」と「純資産価額」を組み合わせて算出されます。 会社規模が大きいほど、「類似業種比準価額」のウエイトが高くなるように決められていますので、類似業種株価等が自社株の評価額に与える影響は無視できません。
株価の算定では、自社の配当、利益、純資産などの状況も考慮しますので、改正後の税制の有利不利は一概に判断はできません。 しかし、国税庁が公表する類似業種株価等は自社株の評価にとても大きな影響を与えることは間違いありません。
分かりやすい例ですが、過去リーマンショックがあった時の類似業種株価等は信じられないくらい低くなりました。それに連動して企業の自社株評価額も総じて低くなりました。 これを利用して自社株を低い価格で後継者に承継させた経営者も多かったと思います。
リーマンショックの例は極端ですが、重要なことは、現在の自社の株価水準を常に頭に入れておくことです。くれぐれも、あの時に自社株を移しておけば良かった…と後悔するようなことは避けなければいけません。
自社の業績と外部環境の変化を常に意識し、株価水準をしっかり見極めながら、円滑な自社株承継をすることは、中小企業の経営者にとって非常に重要な経営課題であると認識すべきです。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 社員 税理士 長沢健史
- 2001年 法政大学卒。主に中堅企業から上場企業に対する税務顧問、税務コンサルティング業務に従事。企業再生支援業務等にも携わる。組織再編、連結納税等の手法を利用したタックスプランニング、資本政策の策定に強みを持つ。
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