中小企業の事業承継を後押しする目的で、事業承継税制の特例制度が2018年4月からスタートしました。
2018年分では約400億円の贈与税が納税猶予されたとのことです。
特例制度導入前と比べて事業承継税制の利用実績が4倍弱に達し、一定の効果が出ているものと思われます。
オーナー社長の中には、まだ活用していないが、どこかで事業承継税制の特例制度を活用したいとお考えの方もいらっしゃると思います。
しかし、納税猶予というメリットだけに目を奪われてはいけません。
当然、リスクもありますし、注意しておかなければならないこともあります。
後継者が一定期間内に会社の代表者を辞めた場合や一定の組織再編行為を行った場合、猶予期間中に求められている税務署への継続届出書の提出を失念してしまった場合には、納税猶予が取り消されてしまいます。
また、後継者以外の相続人にかかる遺留分について検討しておく必要もあります。
財産の健康診断とは?
実は、自社株などオーナー社長の財産を後継者などにどのような方法で移すかを考える前にやるべきことがあります。
それが、財産の健康診断(財産クリニック)です。
あるオーナー社長の例を取り上げてみましょう。
若い頃に起業され、その後、事業に力を注いできた結果、合計3社を経営するまでに拡大されました。
業績も堅調に推移していますし、会社が持っている不動産の価値も上がっています。
社長も60代半ばに差しかかり、いよいよ長男への事業承継を進めるタイミングになってきました。
今までは気にもしていなかった自社株の価格が気にかかり、初めて顧問税理士に自社株評価を依頼されました。
顧問税理士が算定した自社株評価の結果は次のとおりです。
B社が2億円
C社が1億円
合計で6億円
いつの間にか自社株が大きな財産になっていたわけです。
こうなると後継者である長男に自社株を移すのは簡単なことではありません。
もしもの事態が起きたら、その相続税は幾らになるのでしょうか。
相続人である奥様や長男は、その税金を支払うことができるのでしょうか。
事業承継税制を使えば何も問題は起こらないのでしょうか。
皆さんも年に1回は、健康診断を受けることで、自分のからだの状態を把握し、適切な体調管理を行う、適切な治療を受ける、ということをされていると思います。
これと同様に、会社であれば、月次決算を行い、資産や損益を集計し、予算と比較するなどして経営上の課題や懸念事項をチェックします。
そして、その後の経営改善に活かしていきます。
オーナー社長の財産も同じです。
定期的に健康診断を受けておくべきなのです。
財産クリニックで押さえるべき3つのポイント
財産の健康診断で押さえておきたいポイントを確認しておきましょう。
(1)財産の種類・金額を把握する
現金預金などの金融資産の額は把握できていることが多いと思いますが、自社株、不動産などは簡単に把握できません。
財産の種類・金額を把握することは、財産にかかる課題を発見し、今後の対策を考えるための前提です。
できれば社長だけでなく、社長の奥様もセットで行う方が良いでしょう。
(2)納税資金を試算する
現在の財産状況や今後増えると見込まれる財産の額をもとに、もしもの場合の相続税が幾らになるのかを試算します。
この場合も社長分だけでなく、奥様の二次相続を合わせて行い、その総額を現金預金などの金融資産で賄うことができるかを確認しておく必要があります。
もし納税資金が不足するのであれば、その不足分を埋めるための対策を今から考えておかなければなりません。
(3)財産にかかる課題を把握する
オーナー社長の財産は決して個人的なものとは限りません。
会社や事業と切り離せない場合があるからです。
自社株はその代表的な財産です。
上述のオーナー社長の財産がほとんど自社株でそれ以外は大きな財産がないとしたら、後継者だけに自社株を移すことが本当にできるのか、高額となった自社株の価格を抑える方法はないのかを検討する必要があります。
オーナー社長が今すぐ取り組むべきこと
オーナー社長の最大の関心ごとは会社が成長し続けること、利益を出し続けることでしょう。
だからこそ、自分の財産問題が、会社や家族に影響を及ぼさないようにしておかなければなりません。
定期的に財産に関する健康診断を受け、早めに将来のリスクを減らしておくことは、オーナー社長が取り組むべきことなのです。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 磯竹 克人
- 1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
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