見送られた税制改正に見る事業承継対策
昨年の12月12日に「令和2年度税制改正大綱」が公表されました。
今年度の改正には、
事業会社からの出資について25%の所得控除を認める
「オープンイノベーション促進税制」
・グループ内の損益通算という枠組みを維持しつつ
各法人がそれぞれ申告納税を行う
「連結納税制度からグループ通算制度への移行」
など、注目すべき項目が数多くあります。
弊社が開催する税制改正セミナーなどを通じて、是非、今回の改正内容を確認いただきたいと思います。
一方で、この税制改正で創設が注目された「第三者への事業承継にかかる税制措置」は見送られました。
これは、後継者不在の中小企業の経営者が株式譲渡や事業譲渡により、親族以外の第三者に事業承継を行う場合に、その譲渡にかかる税金を軽減するといった内容が想定されていたものです。
しかし、この税制措置が、中小企業の第三者承継の促進に十分な効果は期待できないと判断したようです。
税制面で、社長や後継者の資金的な負担を減らすなどの効果は期待できますが、それが中小企業の事業承継を促進する要因にはならない、ということだと思います。
それでは、事業承継に向けてどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。
中小企業のおける事業承継のポイントとは
事業承継には大きく3つの選択肢があります。
(2) 役員や社員などの親族以外の者に引き継ぐケース
(3) M&Aを含む外部の第三者に引き継ぐケース
以前は子どもなど家族・親族に引き継ぐケースが多かったのですが、少子化の影響もあり、役員や社員などの親族以外の者に引き継ぐケースや外部の第三者に引き継ぐケースが増加しています。
また、最近では後継者難から事業継続に行き詰まる事例が増えつつあります。
東京商工リサーチの調査で見てみますと、2019年は「人手不足倒産」が過去最多を記録したのですが、このうち「後継者難」が60%以上を占めているのです。
今後は役員や社員、外部の第三者を後継者にするケースがさらに増えるように思います。
中小企業の事業承継においてポイントとなるのが、ベストな後継者を選び、その育成をはかることと、会社や事業の「磨き上げ」を行うことです。
社長の考えや会社の状況で上の3つの選択肢のどれにすべきかが変わります。
しかし、後継者に引き継ぐ前にできる限り万全の状態に持っていかねばなりません。
そのために会社を「磨き上げる」ことはどの選択肢であっても必ず取り組まねばならないことなのです。
会社を「磨き上げる」ためには、
・重要な経営課題を明らかにして(課題抽出)
・その解決を行うこと(課題解決)
が必要です。
会社を磨き上げのに一番重要なこと
特に重要なことは、一つ目の「現状分析」です。
私たちは、事業承継に取り組む顧問先に対し、社長と一緒にこの現状分析を行う場合があります。
例えば、ある社長とは次のようなテーマを中心に毎月1回打合せを行っています。
2.ビジネスフローや事業の強み・弱み
3.後継者の選定や後継者育成プラン
4.株主構成と後継者への自社株承継の計画
5.組織体制と意思決定のプロセス、現場の声を聴く仕組み
6.採算管理・原価管理の仕組み、業績管理を行う会議体の現状
7.中長期の経営計画と予算管理
8.給与制度や人事評価制度、人材育成の計画
9.営業目標や営業体制とそのマネジメントの仕組み
10.IT関連ツールの活用度合い
すべての課題をすぐに解決できるわけではありませんが、社長の考えをお聴きし、関連する資料などを確認して、会社の現状を捉えることで「磨き上げる」ための第一歩にしていくわけです。
後継者が決まっている会社はもちろんですが、今はベストな後継者候補が見当たらない会社であっても、会社を「磨き上げる」第一歩として、改めて会社の現状を捉え、円滑な事業永続につなげていただきたいと思います。
アタックスグループでは、税務顧問、経営顧問だけでなく、様々な専門家が事業承継診断や財産承継支援など、事業承継に関する課題解決のためのご支援を行っています。
お気軽にこちらからご相談ください。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 磯竹 克人
- 1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
- 磯竹克人の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。