事業承継の悩みを解決!~「所有と経営の分離型」親族外承継の現場事例

事業承継

令和4年度税制改正で、非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の特例措置(以下、「事業承継税制の特例措置」とします)における特例承継計画の提出期限が、1年間延長され、令和6年3月31日までとなりました。

新型コロナウイルス感染症の影響等により、特例承継計画の策定に時間を要する中小企業者もあると見込まれるためです。

ただし、中小企業の円滑な事業承継が日本経済の待ったなしの課題であることから、贈与・相続の期限については、令和9年12月31日のまま延長されていません。

この事業承継税制の特例措置も、事業承継における課題解決策の1つですが、最近の事業承継の選択肢は多岐にわたっており、準備しなければならないこと、考えなければならないことも、たくさんあります。

親族外承継2つの型

事業承継において、子どもなど親族以外の、役員、従業員、外部人財に承継することを、一般的に「親族外承継」と言います。

最近は、この親族外承継が増加傾向にありますが、その会社の株式の取扱いにより、大きく2つの型に分かれます。

後継者である役員等に対し、事業とともに、会社の株式を売却する「キャッシュアウト」型と、オーナー家が主たる株主のポジションを維持し続け、役員等に経営を任せる「所有と経営の分離」型です。

筆者の関係するお客様のなかにも、「所有と経営の分離」型の親族外承継を進めている会社があります。

今回は、この「所有と経営の分離」型の親族外承継で、押えておきたいポイントを取り上げたいと思います。

「所有と経営の分離」型の親族外承継~2つのポイント~

ポイント① オーナー家と経営陣の良好な関係づくりが大切!

「所有と経営の分離」型の親族外承継で最も大切なことは、オーナー家と経営陣の間の良好な関係づくりになります。

親族外承継で特に懸念されるのが、オーナー家と経営陣の対立です。

最初のうちは、良好な関係であったとしても、

  • 経営陣がオーナー家をないがしろにする
  • 業績低迷でオーナー家が過度に口を出す

このようなことが増えていくと次第に関係が悪化し、それが事業にも悪影響を与えることになります。

ポイント② 良好な関係を維持するための仕組みを整える!

オーナー家と経営陣の良好な関係を維持するためには、そのための仕組みを整えていく必要があります。たとえば、次のようなことになります。

将来の株式構成づくりに力を注ぐ

経営陣となる役員、従業員、外部人財に対し、会社の株式を、どれだけ、どの様に、持ってもらうかはとても重要なテーマです。

ある会社は、親族外承継を進めるなかで、役員ら経営陣の持ち株割合をどうすべきか、役員持株会を導入すべきか、無議決権株式など種類株式を入れるべきかなど、将来の株式構成づくりに時間と力を注いでいます。

経営成果と報酬等の見える化をはかる

オーナー家としては、経営陣が、会社の理念などDNAを引き継いで、成長発展してくれることを期待しています。

しかし、オーナー家ならではの不安もあります。

経営陣が経営力を磨いてくれるか、正しい意思決定を行ってくれるか、暴走することはないか、会社をしっかり守ってくれるかなどです。

一方で、経営陣側には、将来、オーナー家が経営に口出ししないか、経営陣のモチベーションを下げることをしないか、といった心配もあります。

ある会社は、このようなトラブルをできるだけ防ぐよう、オーナー家と経営陣がともに納得できる、経営成果とそれに見合った役員報酬等のルールの見える化を検討している最中です。

他の役員、従業員の協力を得るために工夫する

親族外承継に限ったことではありませんが、後継者である役員、従業員、外部人財の育成がとても重要です。

また、親族外承継では、他の役員、従業員の協力が不可欠です。経営力を高め、他の役員等の協力を得られるような関係をつくっていく必要があります

ある会社は、経営会議の場を活用し、中期経営計画の策定や、各部署の改善活動への取り組みを通じて、経営の仕組みの機能を高めるとともに、後継者や次世代幹部の育成をはかっています。

徐々に、参加メンバーの主体性が高まり、良いチームづくりに繋がっていると感じます。

「所有と経営の分離」型の親族外承継は、オーナー家からのチェック機能が働くことで、経営の透明性が高まることが期待されますが、一方で、経営が不安定になりやすいことや、オーナー家との関係が悪化する場合があるなど、将来のリスクも小さくはありません

今回は、「所有と経営の分離」型の親族外承継について、押えておきたいポイントを取り上げましたが、事業承継に取り組む多くの企業に共通する点もありますので、これからの参考にしていただけたらと思います。

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筆者紹介

アタックス税理士法人 代表社員 税理士 磯竹 克人
1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
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