経営者、大量引退時代に備える事業承継とは~自社株対策

事業承継

私は事業承継が円滑に進められるよう、自社株対策のご支援・ご提案を行うことが多いのですが、今回は相続税の最近の申告状況と事業承継の現状、自社株評価の仕組み等についてご紹介したいと思います。

最近の相続税申告状況

国税庁発表の「相続税の申告状況について」によれば、2017年中(2017年1月1日~2017年12月31日)に亡くなられた方(被相続人数)は約134万人で、年々増えています。

このうち、相続税の課税対象となった被相続人数は約11万2千人で、課税割合は8.3%と、12人に1人が相続税を課されています。

課税割合については、2014年の4%台前半から増えています。
これは、2015年に相続税法が改正され、基礎控除が改正前の60%(3,000万円+相続人の数×600万円)に引き下げられたことによるものです。
基礎控除が減額されたため、課税額が増えたのです。

相続財産の金額の構成比は、
土地36.5%
現金・預貯金等31.7%
有価証券15.2%
の順となっています。
非上場会社の自社株は有価証券に含まれます。

課税割合が増えてきたことからも、自社株対策の要望が増えてきております。

事業承継の現状

次に事業承継の現状についてですが、中小企業庁公表の中小企業白書2019の第2部には、「経営者の世代交代」について記載されています。

事業承継については、
親族への承継が55.4%
役員・従業員への承継が19.1%
社外への承継(M&A等)は16.5%
と、親族への承継が過半を占めています。
その大半は子供(男性)への承継です。

経営者が引退に向けて、相談した相手は、
家族・親族が49.9%
後継者が39.4%
外部の専門機関・専門家が30.9%でした。

外部の専門機関・専門家については、
公認会計士・税理士が72.5%と最も高く、
次いで取引先金融機関33.0%
商工会議所・商工会11.1%
弁護士6.0%
と続いています。

各専門家で特徴的だったのは
「公認会計士・税理士」では「税の手続きを知ることができた」、
「取引先金融機関」と「事業引継ぎ支援センター」では「事業の引継ぎ先を見つけることができた」とする回答割合が高くなっています。

事業承継について、「親族内承継」「役員・従業員承継」「社外への承継」の何れを選択するか、熟慮いただいた後は、それぞれの課題にあった専門家に相談されるのがよいと思います。

非上場会社の自社株評価の仕組み

ところで、「親族への承継」を選ばれた方が次に悩まれるのが、自社株式を後継者に渡す際のコストです。

そこで、次は非上場会社の自社株評価の仕組みについて簡単に説明します。

今回は、親から子に相続又は贈与する場合の自社株評価の仕組みを考えます。

まずは業種に応じて会社の規模を
「大会社」
「中会社」
「小会社」
のいずれに該当するかを検討します。

この判定基準は「従業員の数」「総資産価額」「売上金額」です。

例えば「大会社」に該当するには、業種に関係なく従業員数が70人以上であれば該当します。

また従業員数が70人未満であっても「大会社」に該当するケースはあります。
例えば卸売業であれば、売上金額が30億円以上又は総資産価額が20億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く)であれば該当します。

この会社の区分によって、自社株の評価方法が異なります。
評価方法としては「類似業種比準価額」「純資産価額」があります。

一般的には「類似業種比準価額」のほうが「純資産価額」より評価額は低くなり、これを前提にすると、各会社区分に適用される評価方法は次のとおりです。

「大会社」・・・
「類似業種比準価額」 

「中会社」・・・
「類似業種比準価額」×0.6~0.9+「純資産価額」×0.4~0.1

「小会社」・・・
「類似業種比準価額」×0.5+「純資産価額」×0.5

会社の規模が大きくなるほど評価額が低い「類似業種比準価額」を使う比率が増えることになります。

(参考)自社株評価については『上手な事業承継のポイント』でも詳しく解説していますので、こちらもあわせてお読みください。
 

以上が簡単な非上場会社の自社株評価の算定方法ですが、ここで株価対策の一般的な方法をご紹介します。

一般的な株価対策

1.利益を少なくする

「類似業種比準価額」の要素には利益があります。
利益が少なくなれば、株価算定要素の利益が少なくなることとなり、結果として株価も下がります。

例えば、現経営者から後継者へバトンタッチする際には退職金を支給するのが一般的です。退職金を支給し、利益を下げれば株価も下がり、移転コストが少なくなるわけです。

2.会社の区分をあげる

上に述べたように、「大会社」であれば一般的には「純資産価額」より低い「類似業種比準価額」を利用でき、株価が引き下がる可能性があります。
このため、会社の規模を上げるため、合併等の組織再編を検討されるケースも少なくありません。

もちろん、組織再編の目的が株価を引下げるためだけでなく、事業遂行上必要かどうかもきちんと検討する必要があります。

一般的な株価対策の一部をご紹介しましたが、実際には対象会社ごとの状況に応じて検討します。

また株価対策は事業承継の一部であることをご理解いただいた上で、自社が永続的に継続できるよう早め早めに事業承継の検討をいただければ幸いです。

アタックスグループでは、相続対策などの事業承継に関する様々なお悩みに対し、課題整理から解決のためのご支援を行っています。お気軽にご相談ください
 

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筆者紹介

アタックス税理士法人 社員 税理士 武田 太一
「的確なアドバイスのスピーディーな提供」を信条とし、税務顧問業務を中心に現在約60社のクライアントを担当。 常に最新の税務情報を収集しており、経営課題に対し最新の税務を有効に活用できるか否かも含め、複数の解決方法からメリット・デメリットを検討。 税金だけでなく経営の視点からも最善の解決策となる問題解決を図っている。
武田太一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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