相続対策としての生前贈与の在り方~改正ポイントは「相続税と贈与税の一体化」~

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年末を迎えるこの時期、昨年末の税制改正大綱で触れられた「相続税と贈与税の一体化」が改めてホットな話題になっています。

現行の税制を確認しつつ、果たして相続税と贈与税の一体化で税制改正が行われるのか、何が議論されているのかについてまとめていきたいと思います。

暦年贈与課税

ご存じの方も多いと思いますが、暦年贈与課税とは、生前贈与の一つの方法で、毎年、110万円までの贈与額であれば贈与税が課されません。

この110万円の非課税枠のことを「基礎控除」といい、この基礎控除を超えて贈与された分について贈与税が課されます。

この110万円の基礎控除をうまく利用して、毎年子どもや孫に少しずつ贈与を行えば、長期的にはかなりの財産を相続財産から外し相続税を節税することができます。

贈与税は、もともと相続税の補完的な位置づけで、生前に財産が贈与されてしまうと相続財産が減って
相続税が課税できなくなることを防ぐために設けられました。

しかし、実際には相続税と贈与税の税率差や移転時期を考慮することで、本来、相続財産として課税されるであろう多額の財産を生前に移転させることができます。

現行税制での対応

上記のような相続税と贈与税の違いを利用した課税逃れを防止すべく現行では下記のような税制が設けられています

3年内贈与加算

3年内贈与加算とは、生前贈与を行った贈与者が亡くなった場合、相続開始(死亡日)前3年間に贈与された財産は相続財産に加算して相続税の計算が行われるというものです。

既に収めた贈与税額分は相続税から控除されますが、相続税の計算上は、その生前贈与は無かったことになってしまいます。 

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、2,500万円までの生前贈与については贈与税がかからないという制度です。

2,500万円を超えて贈与を行った場合は、超えた財産額に一律に20%の贈与税がかかります。

一見、節税対策として有効な制度に見えますが、贈与者に相続が発生した場合、
この制度を利用して贈与した財産はすべて相続財産に加算され相続税が計算されます

3年内贈与加算と同様に、生前に収めた贈与税額分は相続税から控除されますが、
生前贈与した財産と相続財産をまとめて計算しますので相続税と贈与税が一体化されていると言えます。

ただし、相続時精算課税制度で生前贈与した財産は、相続財産として計算する際、贈与時の価格が用いられるため、相続までの間に値上がりする財産では節税効果があります。

家賃や配当などの果実を生むような大型の財産を早期に子供や孫に移転させるには有効な制度ですが、
資産自体の値上がり等がなければ、結局は生前贈与がなかったのと同じような結果になります。

このように、上記の3年内贈与加算や相続時精算課税制度は、事実上、相続税と贈与税の一体化を先取りしたものと言えます。

税制改正大綱に見られる国の方向性

この暦年贈与課税の見直し議論は、ここ数年の税制改正大綱では常に触れられていました。

2021年度の税制改正大綱では、大幅な制度改変自体は見送られたのですが、資産移転を公平にすべきという観点から「相続税と贈与税の一体化」として触れられています。

相続税と贈与税の一体化は、資産再配分機能の確保と資産移転の時期の選択について中立的な税制の構築を図るというものです。

日本では相続開始前3年間の生前贈与を相続税の課税対象としていますが、
欧米諸国は日本より長い期間の贈与財産を相続財産に加える形で課税対象としています。

米国は生前贈与の全てが相続税の課税対象であり、英国は死亡日以前7年間、ドイツは10年間、フランスは15年間となっています

各国の税制適用の背景は異なりますが、確かに、相続財産へ加えられる贈与財産の計算期間が長ければ
資産移転の時期が問題にならない中立的な税制になるのだと思います。

今後、贈与税については、資産移転の時期に関係させずに、生前贈与と相続を通じた「資産の総額」にかかる税負担が一定となる仕組みが検討の対象になりそうです。

相続財産に加算されるのは、すべての生前贈与分かそれとも一定の期間分か、
相続対策を検討される方は2022年度の税制改正を含めて今後の制度改変を注視していく必要があります。

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筆者紹介

伊藤彰夫

アタックスグループ パートナー
アタックス税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
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