ファミリー企業が長期存続する理由~SEW理論とは何か?

事業承継

ファミリー企業の“特徴”とは

ファミリー企業は、一族経営ゆえに長期存続している企業が多く見られます。

そこには血縁関係があり、独自性をもつ経営を生み出しています。

ファミリー企業における血縁関係と経営判断、長期存続には、どのような関係性や思考が働いているのでしょうか。

近年のファミリービジネス研究において注目されている理論のひとつに社会情緒的資産(Socioemotional Wealth:SEW)理論があります。

この理論に基づきファミリー企業の行動パターンについて整理してみたいと思います。

ファミリー企業の経営判断のための材料とは


貴社がファミリー企業である場合には、「創業当時から大切にしていること」や「変わらない経営理念」は、選択を迫られた時の決断、事業上の判断、または、日常の事業活動にどのように影響を与えてきたでしょうか。

逆に、これらの行動から貴社が守り続けてきたものは何なのでしょうか。

この関係を理解し、もう一度考えてみることで、今後の経営判断がより明確になるかもしれません。

また、より永く長期存続を実現するために、事業承継を考える上でヒントになると思います。

社会情緒的資産理論(SEW理論)とは

SEW理論とは、
①オーナー一族は、社会情緒的資産を維持するための行動をおこない、
②この行動は、企業の様々な意思決定に影響を及ぼすことになり、
③その結果として、ファミリー企業は、独自性が確保され、経営パフォーマンスが維持される
というものです。

ここでいう社会情緒的資産とは、その時におけるオーナー一族にとっての非財務的であり、経済合理性を有しない動機に基づく価値であると定義されています。

つまり、ファミリー企業は、お金だけじゃない価値観をもっており、それが企業特有の行動に現れ、この行動が事業の継続につながっているというわけです。

企業特有の行動とは


では、社会情緒的資産を維持するための企業特有の行動とはどのようなものなのでしょうか。

以下の側面に現れるとされています。

⑴ 管理プロセス

①承継について
オーナー一族から後継者を選ぼうとする。

②専門化について
プロ経営者の雇用などは、オーナー一族のコントロールを弱めることから消極的である。

③人的資源管理業務について
人財はオーナー一族の価値観と文化を共有していることが最も重要である。

⑵ 戦略的選択

①リスクテイクについて
社会情緒的資産を維持するためなら財務上の損失や赤字を許容する。

②企業の多角化について
オーナー一族のコントロールが低下することから消極的である。

③債務について
オーナーシップを維持するために債務による追加的なリスクを好まない。

④会計上の選択について
オーナー一族の悪い評判やイメージの損失などによる社会情緒的資産の毀損を回避するために税や会計に対して正しいことをしようとする。

⑶ 組織ガバナンス

①取締役会の役割について
オーナー一族で多数を占めようとする。

②インセンティブの調整について
オーナー一族に権力が集中しているときには、企業が安全である満足感を理由に低い報酬を受け入れる。

⑷ 利害関係者との関係

①利害関係者のマネジメントについて
良い評判を維持するために顧客などと長期的な関係を構築しようとする。

②企業の社会的責任と倫理的行動について
社会に反する行動を起こさない。

⑸ビジネスへのベンチャリング

①初期ベンチャー段階でのオーナー一族の役割について
一族の資源を惜しみなく投入する。

②企業の起業家精神について
築き上げたものをオーナー一族に承継したいという想いを持っている。

まとめ

いかがですか?
あてはまる行動が複数あったのではないでしょうか。

また、行動のなかでもその時々の優先順位や濃淡があると感じられたと思います。

ただし、この理論では社会情緒的資産が何であるか確たる定義は明確になっていません。

それぞれの企業には、それぞれの社会情緒的資産が存在します。

数多くのオーナーとお話をしていると、様々な答えが返ってきます。

  • 企業はオーナー一族の象徴だから続けなければならない。
  • 先祖代々受け継がれてきた企業だから次世代に繋いでいくこと自体が現社長の役割である。
  • 先祖が開発した商売(技術、ノウハウ)を文化や財産として守っていきたい。
  • 企業とオーナー一族と地域が一体化(土着)している。地域に愛着があるし、地域貢献のために続けていきたい。
  • 地域の人々を雇用することで企業が成り立っている。企業と地域の人々の家族的な関係を大切にしたい。地域の雇用を守っていきたい。
  • 先祖何代にもわたって勤めてくれている社員もいる。勤めていることを誇りに思ってくれる社員もいる。そんな社員を裏切るわけにはいかない。
  • 長年、得意先や仕入れ先と苦労を共にして親密な関係を築いてきた。この関係を壊すわけにはいかない。
  • 永続企業としての世間の目があるから辞めることができない。

「大切にしていること」、「守り続けていること」に正解、不正解はありません。

アタックスグループは、「社長の最良の相談相手」として、貴社の社会情緒的資産である「大切にしていること」を理解し、伴走し、企業の長期存続を支援いたします。

企業の長期存続や事業承継に関することは、ぜひアタックス税理士法人までお問い合わせください。

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筆者紹介

アタックス税理士法人  代表社員 税理士 青木 規朗
中小企業から上場企業まで幅広い法人税務顧問を担当する傍ら、個人資産家や企業オーナー等への資産税業務に従事。特に組織再編を含めた自社株承継対策や相続対策など財産コンサルティングを得意とする。 税法にとらわれない顧客の立場に立った課題解決をモットーとしている。
趣味:水泳(日本マスターズ水泳協会登録)
青木規朗の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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