最近の日本経済新聞の記事で、老舗の酒造会社における「脱ファミリー」型の事業承継が紹介されていました。長年にわたり守り育ててきた事業や、伝統技術、ノウハウ、取引先などを、第三者にバトンタッチするという内容です。
事業承継の現状
また、その記事では、帝国データバンクの調査により、2022年度において、後継者不在による倒産が487件と過去最高となったことや、後継者候補は「非同族」が36.1%となり、初めて「子ども」(35.6%)を上回ったことも取り上げられています。
ご承知のとおり、中小企業は、日本経済・社会の基盤を支える存在ですが、その事業承継の現状は厳しさを増しています。
令和4年3月に改訂された、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも経営者の高齢化や後継者難による廃業などの現状を取り上げ、「もはや待ったなしの課題」として早期の取り組みを促しています。
そこで、私が携わる事業承継における取り組み事例を紹介しながら、失敗しない事業承継のポイントを確認しておきたいと思います。
大切なのは「経営の仕組み」を機能させること
市場が国内中心で、パイが広がる時代であれば、社長のリーダーシップひとつで成長していくことも可能ですが、人口減少で国内市場が縮小し、複雑かつグローバルな時代では、それほど簡単ではありません。
そこで必要になるのが、いまの経営環境に適応するための「経営の仕組み」です。
立派な経営計画をつくったとしても、それを実行するための仕組みがないと、個人のスキルに依存することになり、会社の組織力アップには繋がりませんし、社員の皆さんが動きやすく、モチベーションがあがる制度を整えておかないと、会社が直面する様々な経営課題をスムーズに解決することはできません。
後継者が子どもであろうが、親族外であろうが、経営環境に適合した、経営の仕組みは機能しているか、ということが、失敗しない事業承継の大きなポイントになると思います。
経営の仕組みにかかせない「3つの制度」
具体的には、次の3つの制度をきちんとつくり上げ、着実に運用することです。
制度1:実行組織
前述したとおり、立派な経営計画があっても、それを実行する組織の組織力が不十分だと、会社の成長は望めません。
この実行組織に関して押えておきたい考え方は、
- 各部署の役割は明確になっているか
- 各部署の長の業績達成能力は鍛えてあるか
- その長に権限と責任を与えているか、各部署間の連携は取れているか
などです。
A社では、すべての部門・社員に対して、人財育成のプログラムを企画し、体系的かつ計画的に実施しています。特に、経営幹部候補に対しては、幹部に相応しい経営力を身につけるためのプログラムを用意しています。
組織体制の見直しだけでなく、社員の能力アップの取り組みを行い、実行する組織の組織力を高めて、会社の成長につなげようというわけです。
制度2:人財マネジメント(人事制度)
次に、社員が動きやすく、成長意欲やモチベーションが上がる制度を整えていく必要があります。
この人財マネジメントに関して押えておきたい考え方は、
- 経営理念に合った人事制度になっているか
- 社員は人事制度を理解しているか
- 目標設定や評価で適切なフィードバックが行われているか
- 社員の成長を支援する制度はあるか
などです。
B社は、これまでの人事制度を見直し、会社方針などにリンクした目標設定を行うとともに、評価基準をより明確にすることで、自らの頑張りと昇給、昇格の見える化をはかっています。
そして、評価のフィードバックに力を入れるなど、社員の働き甲斐やモチベーションを高める仕組みを強化して、会社のビジョン実現に挑戦しています。
制度3:業績管理制度
経営計画の進捗具合のチェックに必要な制度が業績管理制度です。
部門ごとの収益性や生産性などを明確にし、会社の業績などを数値で共有することで、経営計画の推進管理を行いやすくなります。
この業績管理制度に関して押えておきたい考え方は、
- 各部署が納得できる予算管理になっているか
- 月次決算はタイムリーに行われているか
- 差異分析などの把握資料が作成されているか
- 会議体などで推進管理機能を運用しているか
などです。
C社は、管理職が参加する経営会議で、会社全体や各部門の業績報告の機会を増やすなど、これまで以上に業績などの情報を共有することに力を入れています。
また、部門ごとの課題改善活動に取り組み、会議体でその進捗報告を行うことで多くのメンバーからアドバイスを受けるなど、推進管理機能を高める取り組みを進めています。
おわりに
経営の仕組みをつくり上げ、機能させていくことは、会社の組織力を高めることになり、それが、難しい経営環境を乗り越えて、事業承継後の会社の成長につながることになると思います。
もちろん、会社の状況によって取り組みのスピードは違いますし、進め方も異なると思いますが、経営の仕組みが十分に整っていないなら、つくり上げる必要がありますし、あまり機能していないなら、しっかり見直しする必要があると思います。
これから事業承継に取り組もうという中小企業の皆様には、今後の参考にしていただきたいと思います。
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アタックスグループでは、経営の仕組みを構築するご支援のほか、会社の経営状況や経営課題の把握に有用な「強くて愛される会社サーベイ」、後継者、後継幹部が時代を生き抜くための実学が学べる「アタックス社長塾」など、中小企業の事業承継をサポートするためのご支援を行っています。
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筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 磯竹 克人
- 1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
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