非上場会社の株価引き下げ対策、もはや小手先では困難な時代に!

事業承継

昨今の株価変動

8月に入り、日経平均株価に下落の兆しが見え始めています。

しかし、それ以前の日経平均株価は、昨年と比較して上昇傾向にあったため、国税庁から公表された令和6年4月分までの類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等の株価が軒並み上昇しています(令和6年4月分まで国税庁のホームページより公表済)。
▶参考:国税庁HP

例えば、生産用機械器具製造業で令和6年4月分の株価は640円/株となっており、令和5年平均株価の462円/株と比較すると1.38倍になっています。

令和5年分の同業種における株価の数値を見てみると、令和4年平均株価は390円/株でした。

しかし、世間の景気は本当に良いのでしょうか?中小企業の経営者からは、そんな実感はない、という声も聞こえてきます。

自社株承継時の評価方法

M&Aあるいは上場といった選択を想定していない非上場会社にとって、自社株式を換金することは容易ではありません。

お金にすることができない自社株という財産に対して、将来、必ず直面する事業承継の際には、贈与税・相続税の「コスト」が生じる可能性があります。

まず、非上場会社の原則的評価方法の一つである類似業種比準方式により評価する場合は、事業の種類が同一又は類似する複数の上場会社の株価の平均値に比準して評価する必要があります。

つまり、類似業種を比準する際に選ばれている同業種の上場会社の株価が高ければ、一般に、自社の業績に変動がなくても、株価は高く評価されることになるでしょう。

類似業種の株価は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いものとするとされています。

ただし、納税義務者の選択により、類似業種の前年平均株価又は課税時期の属する月以前2年間の平均株価によることができることとなっています。

実際に令和6年に株式贈与を行う前提で類似業種比準価額の株価を計算すると、今年(令和6年)の株価の趨勢でみれば、前年平均株価又は課税時期の属する月以前2年間の平均株価で計算することが多いかと思います(今後の株価動向は注視していく必要があります)。

さらに、来年(令和7年)に非上場株式の評価をする際には、今年(令和6年)の類似業種の平均株価が来年の前年平均株価に近い数値になることが予想されますから、今よりも高い株価となる可能性が目に見えています。

かつてのコロナウイルスによる緊急事態宣言発令時のような大きな停滞が起きない限り、「承継コスト」という視点だけでみれば、適切な株式承継のタイミングはないのではないか、とさえ思えてきます。

類似業種比準方式の算定の基礎

次に、類似業種比準方式の算定の基礎は、業種目別の1株当たりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額及び株価です。

かつて、その計算式の比準割合は、配当、利益、純資産の比率が1:3:1でした。

つまり、利益に対する影響が大きい計算式でした。

したがって、先代経営者に対し役員退職金を支給することにより利益要素の数値が下がれば、類似業種の株価はそれなりに下がる状況でした。

株価が下がった後で後継者に株式移動を行う、というのが株価引き下げを踏まえた株式承継の定番でした。

ところが、平成29年度の税制改正により、配当、利益、純資産の比準割合が1:1:1となり、近年は、目先の利益対策だけでは株価に対して十分な効果が上がるとは言えなくなっています。

もともと、経営者が自社の業績を積み上げるほど、自社の株価は上昇し、会社経営者が後継者に株式承継する際には多額の贈与税・相続税が発生する仕組みになっています。

もちろん自社の業績を悪くすれば株価は下がっていくのでしょうが、それでは後継者に自分の会社を承継する意味がなくなってしまいます。

この状況に解決策はあるのでしょうか?

自社株承継に失敗しないために

令和6年度の税制改正大綱によれば、非上場株式の承継に際し贈与税・相続税が100%猶予される事業承継税制の特例措置は、前提条件である特例承継計画の提出期限が令和8年3月31日までに延長されました。

一方で、特例措置の適用期限については、令和9年12月31日までの間の贈与あるいは相続等のままということで今後とも延長を行わない、と記載されています。

この承継時期にうまく当てはまる経営者の方は、前述の制度をご活用いただくのも一つの手ではあります。

ただし、あくまで納税の猶予であり、官公庁に対する継続的な届出などの制約もあるため、万能な制度と言い難いのが実情です。

また、種類株式の導入などにより議決権を制限する、あるいは信託を活用することにより、財産権と経営権を切り分けて株式承継する方法も状況によっては有効な対策になる可能性はあります。

ただし、現時点においては税法における解釈でグレーといえる部分もあり、さらに、従業員の雇用を守ることが経営者の役割であるとするならば、オーナー家として、経営権を手放すような状況にはしたくないというのが本音ではないでしょうか。

相続対策は専門家に相談

相続対策として、私どもにご相談いただく内容としては、円滑な遺産分割、納税資金の確保、税額の軽減対策。さらには、事業承継対策、株価引き下げ対策等があります。

これらは、具体的な対策を実行しようとすると、それぞれが互いに関連し合うことに気がつきます。

どのような対策にもメリット・デメリットがあり、何か一つの方策を選択すれば、全てが解決できるというものではありません。

本来、経営者の皆様には本業に専念していただきたいと思います。

特に、事業承継といった「財産」・「家族」・「経営」の課題が複雑に絡み合う状況においては、継続的に寄り添ってくれる専門家の経験、知恵を頼りながら、何が自社にとって望ましいのか、今後を担う後継者の方々などを交えて、時間をかけて検討し、議論し、理解していく場が必要ではないでしょうか。

アタックス税理士法人は、「社長の最良の相談相手」を目指す専門家集団として、幸せな事業承継のお手伝いができる多くの知見があります。

事業承継に関することは、ぜひアタックス税理士法人までお問い合わせください。

筆者紹介

アタックス税理士法人 社員 税理士 CFP 松岡 聡
中小企業から上場企業まで幅広い法人顧客を担当。税法解釈等において、「自分が納得いくまで調べきる」、という誠実な対応と、その実直な人柄で、オーナー経営者や経理担当者の信頼を得ている。最近では、顧客のあらゆる経営課題に対応すべく、資産税や組織再編などの特殊税務に関する支援にも携わる。
松岡 聡の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました