株式承継の最適タイミングとは!~民法相続編の改正と遺留分問題

事業承継

会社を経営されている方にとって、事業の承継は一大関心事だと思います。

事業承継を行う上で、後継者の育成とともに重要となってくるのが、自社株式の承継です。 自社株式の承継は、相続対策とセットで検討することが多く、大きく分けて、下記の3点を中心に検討します。

・株式を誰に渡すのか?
・株式を承継する際の税金はどのくらいか?
・承継する株式の評価額は下げられるか?

今回は、この中で、「株式を誰に渡すのか?」という検討ポイントを、約40年ぶりに改正された民法相続編の改正内容に沿って解説します。
株式を誰に渡すのか?という問いに対して、一般的には、事業を承継する後継者に渡すのが答えになると思います。

その際、必ず検討しなければならないのが、株式を後継者に承継することで、後継者以外の相続人の遺留分を侵害していないかどうかです。
遺留分とは、法定相続人に最低限与えられた権利で、法定相続分の2分の1の財産をもらうことが出来る権利です。

例えば、会社を経営している方に、配偶者と子供が2人いるケースで、子供のうち1人を後継者とした場合、下記のように財産を分けようとするとどうなるでしょうか?

・現預金:6千万円を配偶者、子供2人の計3人で均等に分ける
・ご自宅:4千万円を配偶者に渡す
・自社株式:1億円を後継者に渡す

財産総額が2億円ですので、それぞれの遺留分は、以下のようになります。

・配偶者:法定相続分2分の1×2分の1 =5千万円
・後継者:法定相続分4分の1×2分の1 =2千5百万円
・後継者でない子供:法定相続分4分の1×2分の1 =2千5百万円

配偶者は、現預金2千万円+ご自宅4千万円>遺留分5千万円、後継者も、現預金2千万円+自社株式1億円>遺留分2千5百万円、この二人に遺留分の侵害はありません。

問題は、後継者でない子供です。
現預金2千万円だけでは遺留分に満たなくなります。

特に、業績の良い会社や内部留保が多くある会社は、自社株式の評価額が高くなりやすいので、遺留分の問題は避けて通れません。
この遺留分の算定には、相続人に生前贈与した財産も含めて計算することになっており、遡る期間は、民法改正前は無制限と考えられていました。

また、算定する際の財産の価額は、贈与時点ではなく、相続時点で評価することになっています。
このため、会社を引き継いだ後継者が頑張って会社を大きくしたことによって会社を承継しなかった他の相続人に対する遺留分の侵害金額が大きくなり、遺留分の請求を受けるというケースもあり得ます。

今回の民法相続編の改正では、相続人に対する贈与について遺留分算定上の期間制限を相続開始前10年間に限ることを原則としました。
先の例でいえば、自社株式1億円を相続が発生する10年前に贈与していれば、遺留分の対象となる財産から外れることになります。

つまり、早めに事業承継の計画を立て、その計画に従って財産を贈与しておくことで、遺留分の問題を軽減できるというわけです。
中小企業庁の資料によると、中小企業経営者の平均引退年齢が上がっており、事業承継が進んでいません。

このままでは、2020年までに廃業する可能性がある企業が100万社を超えるという試算もあります。
一方、経営者が交代した企業や若年の経営者の方が、投資意欲も高く利益率や売上高を向上させているというデータもあります。
(出典:H28.11.28中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」)

生涯現役で!と頑張られている経営者の方も多いと思いますし、それも経営者人生の一つだと思います。
また、後継者の選定や育成、事業の将来性、従業員の採用など、事業承継をしたくても出来ない企業もあると思います。

しかしながら、経営者の気力、体力が十分で、事業も順調な時期にこそ、事業承継の検討が必要で、早めのバトンタッチが企業の更なる成長につながります。
事業承継は、後継者の選定から、育成、引き継ぎ、までを考えますと5年から10年かかりますので、計画的に進めていくことが肝要です。

その際、遺留分の遡りが相続前10年になったことも視野に入れ、計画を立案し、今回の民法改正を上手く活用いただければと思います。
注)今回の内容は一般論として記載しております。

状況や法律の解釈によって結論が異なる可能性がありますので、実際に実行される際には専門家にご相談ください。
アタックスでは事業承継に関する課題解決のためのご支援を行っています。
お気軽にご相談ください

筆者紹介

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アタックス税理士法人 主任コンサルタント
稲木 武雄 (いなき たけお)
2000年 金沢大学卒。ベンチャー企業から上場会社まで幅広い会社の税務顧問業務を担当、また、組織再編成実行支援といった特殊税務や相続対策などの資産税についても幅広く対応、総合的な税務コンサルタントとして活躍するプロジェクトマネージャー。

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