ここ数年の「事業承継税制の創設」「民法(相続法)の見直し」といった背景を踏まえて、最近、事業承継・相続対策に関するご相談が増えてきました。
私は、後継者やご家族等へ事業や財産の承継が円滑に進められるよう、各種ご支援・ご提案と、それに伴う申告業務等をさせていただいております。
今回は、その中で、特に「相続対策」の重要性についてご紹介したいと思います。
もしものことがあった場合に備えて行う「相続対策」には、以下の3つの視点があります。
(支払えるのか)
2.相続財産の評価を下げることで、
少しでも想定される相続税額を少なくできないのか
(下げられないのか)
3.相続財産に換金性の低い土地・建物や非上場の株式等がある場合、
その相続財産を相続人の間で分けることができるのか
(分けられないか)
このうち、相続後に、最も心を悩ませるのは、3の、「相続人の間で、公平に、皆が納得する形で、どのように相続財産を分けるのか」、という視点です。
不公平にならない相続の考え方とは
本来、税理士が行う業務は、税務代理としての申告業務になりますから、相続人の間で決める財産の分け方には口を挟めません。
税理士は、相続財産である土地や株式などの財産評価を行い、納税する相続税額がより少なくなる特例等の活用を検討し、財産評価の一覧等を提示します。
それをもとに、相続人の方々の間で、どのように財産を分けるか協議の上で決定いただくことになります。
ただし、財産の分け方によっては、各相続人の相続税負担額も変わります。
また、相続人に会社の後継者がいれば、評価額の高い株式など会社関係の財産を引き受けていただくことが普通です。
こうしたことに加えて、相続人の方々の関係性を考慮して、分け方に関しても各種ご提案をさせていただくことがあります。
その際、次の3つの視点を踏まえて検討します。
1.民法で定められた法定相続分や遺留分といった「権利」による金銭的な視点
今はインターネットで情報がいくらでも入手できますし、誰でも権利は主張します。
2.生前における「介護」を含め、誰が生活の面倒を見ていたのか、という視点
被相続人・相続人間の人間関係など個人の「思い」「感情」が入り込むと悩ましくなります。
3.相続財産を売却した場合の「時価」と「相続・贈与の場合の評価」の違いの視点
税法独自の考え方としては、他にも、承継する相続人によって「同じ財産でも評価額が異なる」こともあります。
様々な視点が複雑に介在するため、結果として、相続人の間で誰が何を相続するか合意できないまま、思いがすれ違い、人間関係まで悪くしてしまうこともあるのです。
そのような場合にいつも思うことは、被相続人がご存命のうちに、なんらかの対策を打つことができなかったのか、ということです。
スムーズな財産承継をするために
生前に、所有する財産評価の一覧を作成した上で、もしものことがあった場合の相続税額をご提示する。
そして、遺言といった形で、どのように財産を分けるのかまで、被相続人の意思も含めて確認しておく。
こうしたことが出来ていたら、場合よっては、スムーズな形で財産の承継が出来たのではないかと思うことがあります。
財産の中で特に判断が難しいのは、「経営」権と「財産」権を併せ持つ非上場株式です。
親にとって子供は平等ですが、将来のことを考えず、株式の「財産」権のみ重視して平等に分配してしまうと、その評価と分け方によっては、後々に「経営」権を確保するため集約が必要になった場合に、後継者に多大な時間と心労、そして金銭的な負担を強いることになってしまいます。
もちろん、実際には、生前には意思確認ができる状況にない場合や、過去の経緯などの人間関係を考慮すると対応できないことが多々あることも事実です。
それでも、本来の相続対策の「あるべき論」として、現状を把握し、課題を認識し、共有し合うことから始める必要があると考えます。
その上で、家族間で普段は話し合えないような「財産の分け方」や、将来に渡っての仏壇やお墓の管理などといった、個別事情における「家族のあり方」を話し合っていただければ、後々の「相続」が「争族」に変わる可能性を少しでも回避することにつながると思っています。
アタックスグループでは、相続対策などの事業承継に関する様々なお悩みに対し、課題整理から解決のためのご支援を行っています。
こちらからお気軽にご相談ください。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 社員 税理士・CFP
松岡 聡 - 中小企業から上場企業まで幅広い法人顧客を担当。税法解釈等において、「自分が納得いくまで調べきる」、という誠実な対応と、その実直な人柄で、オーナー経営者や経理担当者の信頼を得ている。最近では、顧客のあらゆる経営課題に対応すべく、資産税や組織再編などの特殊税務に関する支援にも携わる。
- 松岡 聡の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。