2023年11月19日付の日経新聞朝刊に「中小の事業承継後押し税優遇申請期限延長へ」という記事が掲載されました。
内容は、事業承継税制の特例措置の適用について2024年3月までとなっている提出期限を延長。経産省には3年の延長案もあり詳細は12月の与党税制改正大綱で詰める、というものです。(なお、2023年12月14日付の与党による税制改正大綱では2年の延長とされました。)
事業承継税制の制度概要
あらためて、事業承継税制の制度概要について見ていきましょう。
事業承継税制は、中小企業の事業承継を円滑に進めるために非上場株式の相続税、贈与税の納税を猶予する、というもので、平成21(2009)年度税制改正で創設されました。
「後継者の代表就任」や「雇用の8割維持」、「株式の継続保有」などの要件を満たせば、発行済株式の3分の2までの相続税について80%が猶予され、一定の場合には免除される、という制度です。
ただ、制度は創設されたものの「雇用の8割維持」など、厳しい要件のため制度の利用実績は低調でした。
特例措置とは
このような状況のなか、平成30(2018)年度税制改正で、「特例措置」が創設されました。
「特例措置」とは、平成30(2018)年4月1日から令和5(2023)年3月31日までに特例承継計画を都道府県に提出し認定を受けることで、平成30(2018)年1月1日から令和9(2027)年12月31日までの10年間は、非上場株式のすべてについて相続税、贈与税の全額を猶予する、というものです。
この「特例措置」では、「発行済株式の3分の2までの相続税について80%」であった猶予額が拡大する他、後継者の人数も1人ではなく最大3人まで、子や孫以外でも適用できる、などが盛り込まれ、また、「雇用の8割維持」については下回ったとしても理由を説明すればOKなど、要件も緩和されることになりました。
令和4(2022)年度税制改正で、この「特例措置」の適用について、令和5(2023)年3月31日までとされていた特例承継計画の提出期限が1年間延長され、令和6(2024)年3月31日までになりました。
今回予定されている改正も、令和4年度税制改正と同様、特例承継計画の提出期限の延長であり、令和9(2027)年12月31日までとされている特例自体の期限を延長するわけではなさそうです。
事業承継税制適用時の留意点
事業承継税制は自社株のために通常高額となるオーナー家の相続税対策としては有効であると思いますが、適用する際に留意すべき事項も多くあります。
主なものとして、事業承継税制適用後の組織再編の実行分割型分割や資本金や資本準備金の減少は猶予の取消事由に該当するため、猶予された税金と利子税を納付しなければなりません。
また、合併などの場合にも取消事由に該当しないか、事前にしっかりと検討することが必要です。
後継者の資金確保
遺留分の支払いや納税資金などのために猶予の対象とした株式を売却しますと取消事由に該当、この制度適用に関する申告期限の翌日から5年経たないうちに対象株式を1株でも売却すると猶予された全額を納付しなければならなくなります。
必要資金の確保は事前に検討しておく必要があります。
後継者以外の相続人への配慮
後継者については事業承継税制の適用によって納付する相続税を抑えることができますが、他の相続人は自社株の評価によって高い税率となってしまう相続税を納めなければなりません。
長男である後継者は自社株を相続するものの事業承継税制を適用して納付は0円、次男は1億円の現金を相続するものの自社株の高額な評価によって相続税率が高くなり、半分を納税しなければならない。
このことを発端に兄弟での相続争いが起こらないとも限りません。
事業承継税制の適用だけで安心するのではなく、自社株の株価対策についても検討する必要があります。
「特例措置」を適用するために必要となる特例承継計画の提出期限については延長されるようですが、特例自体の期限は変わらず、令和9(2027)年12月31日までのようです。
相続税対策としてこの「特例措置」を活用される場合には、先に述べた事業承継税制の留意事項をしっかりと認識した上でご検討ください。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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