政府による民間への賃上げ要請、組合によるベア要求、労働時間の規制緩和の議論など、アベノミクス効果もあって、働くことや雇用のあり方に関する議論が多く見聞されるようになりました。
そんな中、先日放映されたNHKのある特番を視聴しました。中国で、儒教や宗教に触れて、拝金主義に陥った自分を省みる人々が激増しているという内容でした。
番組では経済的に成功した人が法師や牧師の話に接して涙し、五体を投げ打ち自分を悔い改めている姿が映し出されていたのです。
「拝金」などと表現せずとも「働く」ということとその人の「生活」との関係性について深く考えさせられる番組でした。
ややもすると競争力という観点で人材を考え、コストという観点で雇用や賃金を議論することの多い私は、少なからず衝撃を受けました。
番組で取り上げていたことはダイナミックな経済成長が続き、儒教や宗教を制限している中国固有のことでしょうか。日本はこの問題をとうに乗り越えてきたのでしょうか。私にはそうは思えません。
この20年日本は低成長・マイナス成長との戦いの中で雇用や賃金、労働に関して暗中模索をしてきました。
いち早く経済的成長を遂げた先進国が一身にその経済的利益を享受した時代を終え、中進国・新興国の国民も経済的豊かさを渇望して止まない時代となりました。
経済のグローバル化はこれからも進行していくでしょう。このような経済環境の中で、「生産性」ということと「働く者にとっての意義」という二律に、今こそ真剣に取り組まなくてはなりません。
ワークライフバランスという考え方は1990年代からアメリカやイギリスで提唱され始め、日本でも数年前から経済界・労働界・行政一体での取り組みが行われています。
政府の進める取り組みでは、雇用する側の論点として
(1) 育児・介護休業など休暇・休業制度の整備、
(2) 短時間勤務制度やフレックスタイム制度などの働く時間の見直し、
(3) 在宅勤務などの働く場所の見直し、
(4) 再雇用や正社員への転換制度などの
働くスタイルを選択できる制度の整備、
(5) キャリア・ライフプランニング支援、
(6) 事業所内保育所整備や自己啓発費用補助などの経済的支援、
などが挙げられています。
雇用や賃金についてコストという側面だけを捉え続けるのであれば、もはやその会社には中長期的には持続性がないといっても過言ではないでしょう。
働くことに関する多様な価値観を理解し、会社の掲げるビジョンや理念でもってこれらを束ね、多様な選択肢を用意して人材を活用する。
これを常に模索し続けることがこれからの会社に欠かせない要素となるのではないでしょうか。
決して大企業だけの問題ではなく、むしろ中堅中小企業にこそ創意工夫が求められるテーマであると思います。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 廣瀬 明
- 1968年生まれ。企業再生、財務・事業デューデリジェンス業務、M&A、株式公開のサポート等に従事。中堅中小企業への豊富な支援業務を通じて培った知識と経験を活かし、現在大阪事務所のプロジェクトマネージャーとして活躍中。
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