昨年秋、埼玉県春日部市にあるS社を訪問しました。
この企業は、高級米菓および洋菓子を製造販売していますが、創業者の先代社長から大手家電メーカーを退職した現社長が事業を引継ぎ拡大させました。
系列の小売会社ではオリジナル米菓ブランドの商品を19店舗で販売しており、また大手テーマパークや高級菓子店へのOEM(相手先ブランドによる供給)での販売も手広く行っています。
S社を訪問した目的の一つは、今年春完成した第二工場と工場併設の多目的カフェ(エステラス)を視察することでした。
新工場は社長の強い思いから「日本一安全・安心な工場」をコンセプトとして建設されました。
食品工場としてのトレーサビリティシステムも業界に先駆けて導入されており、経済産業省のIT経営百選「最優秀企業」にも2度にわたって選ばれています。
最初に、工場の視察の前に参加者に毛髪・服に付着したチリなどの異物進入を防ぐための帽子・コート・靴カバー・マスクが配られました。
次に工場に入る際は石けんでの手洗いと消毒をし、更に工場内部へ入る入口は半導体工場で見掛けるクリーンルームの風を利用したチリ除去のゲートが備わっていました。
工場内はきわめて清潔でした。
「工場内を見学して頂くと安心され、ほとんどの方がお客様になっていただけます。」とのこと。
確かに工場内を案内していただいた女性の接客と説明も見事でしたが、この工場の徹底した品質管理・衛生管理に関する備えが強力な営業機能をはたしていると実感しました。
実はS社の訪問にはもう一つの目的がありました。
それはS社の女性活躍が目覚ましく(女性社員の比率が75%)、経済産業省監修の女性が働きやすく活躍している会社に贈られる「ホワイト企業」(2013年文藝春秋社刊)25社の内の一社であり、そのユニークな経営を社長から聞くことでした。
同書によればホワイト企業とは「男女にかかわらずひとり一人の社員を大切にしてくれる会社」のことであり、S社はこの点でも徹底しています。
社長の説明では女性の管理職比率は現在23%ときわめて高く、5年後には35%を目指しています。
女性が活躍し輝くための制度・仕組みづくりもユニークでした。
男女共同参画委員会が、長期的観点で「女性の活躍を推進する」仕組みづくりを考え、委員長の女性社員が中心となってどんな制度を採り入れれば女性が働きやすくなるかを検討し、働く女性のニーズを汲み上げ、社長の決裁で新しい施策が次々と実現されています。
特に育児の面では、現在育児をする女性のほぼ全員が育児休暇を取得し、その後復帰しています。
なお今後は育児だけでなく介護を担うことも出てくることを想定し、「一人三役」制度を導入しています。
一人が担当できる職種を三つまで広げて育児や介護などで事情があって休む人の仕事を別の職種の人が助けるしくみです。
またこのしくみが実際に使われるための仕掛けとして「一日一善制度」を取り入れ、お互いのどのように助け合ったかを朝礼の場で発表し、社内LANにアップし、全社で情報共有しています。
「困った時はお互い様」ということでしょうか。
更にS社は高齢者にとっても働きやすい会社を目指しており生涯現役、健康であれば77歳まで仕事ができるそうです。
筆者は社員にとって「働きやすい会社」「働きがいのある会社」の条件は、
1.尊敬・信頼できる社長(幹部社員)の存在
2.お客様から提供価値(お役立ち)を認めてもらえる誇りの持てる仕事
3.社員同士が信頼の絆でむすばれ連帯感(チームワーク)が持てる職場
ではないかと思います。
日本は人口減少時代であり、長期的視点で考えればS社の様な会社を目指すことで事業の永続が可能です。
今後は働き手がどんどん減っていくことを考えると、女性、高齢者に限らず社員を大切にする「働きがいのある会社」でなければ会社の存続が難しくなります。
S社は多くの中堅・中小企業にとってお手本となるのではないでしょうか。
アタックスグループでは「人が輝き会社が変わる」という思いで、人事制度改革支援、組織活性化支援など行っています。お気軽にご相談下さい。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 丸山 弘昭
- 数百社のクライアントについて「経営のドクター」として、経営・税務顧問、経営管理制度の構築・改善、経営戦略・経営計画策定、相続対策・事業承継、M&Aなどを中心としたコンサルティング業務に従事。幅広いネットワークと数多くの実績を生かし、経営者の参謀役、「社長の最良の相談相手」として活躍中。
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