社長の“情報発信力”こそが、共通認識を醸成する切り札!

人材育成

「NHKの大河ドラマ“軍師官兵衛”を見ている人、手を上げてください。」
ある企業で講師を務めたときのこと。
「戦略論」を解説するための格好の時事ネタとして、勢いよく聞いたのが、この質問でした。

しかし会場の中で手を上げたのはたったの一名。
誰もが見ているものと勝手に思い込んでいただけに当てが外れ、その後は、しばし歴史の解説タイムとなりました。

ちょうどその頃の放映は、明智光秀の謀反により本能寺の変が勃発したあたり。
織田信長死去の報を受けた豊臣秀吉の中国大返しは、あまりにも有名です。

その傍らで軍師として秀吉を支えたのが黒田官兵衛であり、その結果、明智勢を討ち破り、秀吉はその後、天下人へと駆け上がっていきます。
この下りは、戦国時代もののなかで、もっともドラマチックな場面の一つです。

「このドラマ、他では絶対見ているはず」と気を取り直し、別の二箇所でも同様の質問をしてみましたが、やはり結果は同じ。
見ていた人は、一会場一名程度でした。

「官兵衛、見ましたよ。備中高松城の水攻めなんかも見事でしたね。敵味方ともに流血を極力避けた戦略で敵を討ち破る、官兵衛の発想と戦略には驚きました。」

もしも多くの受講者がこのドラマを見ていたならこんな会話も出たでしょう。
そして、その後の講義も、“軍師官兵衛”という共通認識があることによって、学びのスピードが更に上がったに違いありません。

このエピソードを通じて改めて感じたこと。それは、現代は“多様化社会”であるということです。

皆が同じものを見て、同じものを欲しがっていた時代は、経営も現場のマネジメントも比較的楽だったのではないでしょうか。
しかし現代は、手に入る情報や娯楽が細分化され、共通の話題がどんどん少なくなっています。

多様化社会とは、ビジネスチャンスを生む社会であり、成熟の象徴でもありますが、その反面、人間の思考や価値観、行動様式までもが多様化することを意味しています。
これが経営や、現場におけるマネジメントを一層難しくしています。

「言葉が通じない」
「言っている意味がわからない」
「こんなことも知らないなんて」
「どうしてそんな風に解釈するのか理解できない」

これらは、世代間格差によるものと考えがちですが、違います。
同世代であっても触れる情報の違いによって、とらえ方考え方が異なれば、世代間格差以上に、コミュニケーションを困難にします。

そのため互いに探り合いながら会話をすることになるわけです。
社員相互の共通認識の有無が、組織のパフォーマンスの差を生むことは明らかです。

多様化社会において最も重要なこと。
それは、社長が、経営のあらゆる意思決定のもととなる理念や価値観を明確に表明することであり、それを情報発信することだと思います。

もっと言うと、他から入ってくる情報が霞んでしまうほどの強烈な情報発信力で、組織の中に共通認識を醸成していくということです。

情報発信力を高めるには、中身の熟考もさることながら、社長の「話す力」を磨くことも必要になるでしょう。

外資系企業で日本法人の社長を歴任した友人は、社長就任前にボイストレーニングをして、話し方と話すスピードを訓練したといいます。彼は、「伝え方」が情報の質を左右する重要なファクターであることを認識していたからです。

組織の中に共通認識を醸成させるという作業は決して容易ではありません。しかし、共通の理念、価値観を組織の先端まで浸透させる力、腹落ちさせる力こそが、これからの時代の社長に求められる、最も重要なコンピテンシーではないかと思います。

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筆者紹介

株式会社アタックス 執行役員 中小企業診断士 北村 信貴子
1963年生まれ。中小企業診断士、産業カウンセラー、BCS認定ビジネスコーチ。大手食品メーカー勤務後、アタックス入社。中堅中小企業を対象に経営診断や人事制度設計運用・人材育成業務に従事。現在は、後継者育成、管理者教育、女性リーダー育成を中心に実践型の教育訓練・能力開発に特に注力。講演・セミナー実績多数。受講者との対話を通じて理解を深めていく迫力ある指導には定評がある。
北村信貴子の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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