1on1導入後の悩み
私は経営者や経営幹部をコーチングする経営コーチです。
コーチング現場で1年前から増加している相談事例をもとに解説します。
相談内容は1on1ミーティング(以下1on1)に関するものです。
「1on1を全社に取り入れたのですが、思うような成果が上がらないのです。どうしたらよいでしょう?」
抽象度の高い悩みを具体化するために次の質問を投げかけました。
②1on1導入前に部下との面談は実施していましたか
③従来実施していた面談と1on1は何がどう違うのですか
④その違いは文章化するとどのような表現になりますか
⑤文章化が出来ていたとしたら全社に公表していますか
⑥「思うような成果」の成果とは誰にとっての成果ですか
⑦面談のトークスクリプト(ルール)はありますか
⑧上司と部下の会話量はどちらが多いですか
・・・etc
1on1導入の目的等が社内に周知されていない
この会社は目標設定面談、進捗確認面談、賞与・昇給面談を定期面談として実施しています。
そのため、1on1においては「部下の将来キャリア」を描くことを目的にしました。
この点はすばらしいですが、実施に当たり社内へ目的・運用方法・ゴール設定が提示されていませんでした。
つまり、経営幹部は知っていても部下には浸透しておらず、共通認識がないまま制度導入されたわけです。
私の見解は、「まず、運用の入り口の段階に問題がありますね」
問題の本質はどこにあるか
しかしこれだけでは問題解決になりませんのでさらに深く相談者の悩みを聞いたところ最も回答時間が必要だったのは次の質問でした。
③従来実施していた面談と1on1は何がどう違うのですか
⑥「思うような成果」の成果とは誰にとっての成果ですか
導入した1on1は「部下の将来キャリア」を描き切ることが目的ですが、従来の面談との違いや誰のための1on1かの問いかけにも明確な回答が返ってきませんでした。
主人公は部下であるはずですが、明確な答えが返ってこないことが問題の本質と私は捉えました。
その疑問を投げかけたことに対する相談者の回答は
「部下にどの様なキャリアを積みたいのか問いかけても答えが返ってこない。聞けたとしても私はその後何をすればいいのかわからない。普段の業務における上司部下の関係は多分トップダウン的、威圧的なので1on1の際にそのスタイルが出ているように感じています。」
などの本当の悩みを話し始めました。
更に面談のトークスクリプト(ルール)が無いため、運用は上司任せになっており、それが真因と考えました。
これでは上司のプレッシャーが大きいことは想像に難くないですし、それぞれのローカルルールが生まれ、組織全体の成果にはつながりません。
面談での対話を円滑にするために
このようなケースは多くの企業で見受けられます。面談における対話のキャッチボールを円滑にするには次のヒントを参考にしてください。
ヒント① 部下との1on1において上司である皆さんが話している割合はどれくらいですか?
ある調査によると、上司と部下が話している割合は7:3だそうです。
主人公は部下なのに上司が話しすぎなのが現状です。
上司は部下より成功体験数も業務経験も上回っています。
よって部下には何が不足しているか分かっているため、答えを待つよりも話したほうが早いと考えがちです。
ヒント② すべて聞いていますか?
自分が聞きたいことを聞くのではありません。
部下が話したいことを聞いてください、そして部下が話したいことをすべて聞いてみてください。
部下の時間ですから…。
ヒント③ 間を怖がらない
面談中に沈黙の時間が訪れます。
この時間が耐え切れず沈黙を破るために上司が話してしまう場合があります。
沈黙の時間は部下の頭の中に自問自答のオートクラインが働いている可能性がありますから部下に時間を与えましょう。
沈黙も対話の一部です。
ヒント④ コミットメントする
描き切ったうえでそのキャリアを何時までどのように達成するかを決めましょう。
納期の無い仕事は仕事とは言わないのと同じです。
ヒント⑤ 部下のポジション(立ち位置)を把握してみては?
あなたの部下はどんな人?と尋ねられた時に何と答えますか。
10人の部下には10通りの立ち位置があります。
それぞれの立ち位置に合わせて面談内容を決めてください。
心理的安全性について
「心理的安全性」という概念が、組織開発・人財開発、さらに社内コミュニケーション活性の場面で取り上げられていることは皆さんもご承知と思われます。
この概念は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が、チームがハイパフォーマンスを発揮させるには心理的安全性が高いこと、それを引き出すには支援型のリーダーシップが必要であることを提唱しました。
心理的安全性が高いとは、どのような状態なのでしょうか?
②「成果ばかりを追い求めない環境を作ること」
③「できるだけ仲良くすること」
どれが正しいでしょうか?
すべて不正解です。
まったくの間違いではないにせよ本来の解釈から大きく外れています。
昨今の職場環境においてはパワハラを代表としたハラスメント問題がクローズアップされています。
上司が委縮しているこの現状は、経営にとってマイナス要因にほかなりません。
この要因により心理的安全性を「ゆるくて甘い」といった違う解釈に誘導されてしまっているとするなら早く戻す必要があります。
「心理的安全性」の本来の意味は「チームのメンバーが、リスクを負った発言や言動をしても、対人関係上亀裂が生じない」ということです。
報連相をすることが大切といわれますが、「お互い(上司・部下)報連相ができる空気を作ることが大切」と似ていますね。
自分の弱みを開示できるマネージャーは強い
これまでは「正解のある業務」が主流であり上司や先輩が部下に「教える・指示する」ことが重視されましたが、これからは「正解のない業務」、つまり誰も正解を持っていないなかで多様な価値観を出し合い、対等に解を追求することが求められます。
だからこそ相互理解や成長促進が必要なのです。
これまで上司が部下に対しての「すべきこと」を述べてきました。
上司にかかるプレッシャーは大変なのものがありますね。
一昔前まではこのようなテーマは取り上げられませんでしたが、一方で上司も人間です。
板挟み状態のマネージャーの心理的安全性はどうなるの?という問いには、マネージャー自身の心理的安全性もメンバーとの対話を通じて高まるものと考えています。
当然ながらマネージャー自身もメンバーに何でも話ができなければ心理的安全性が高いチームとは言えません。
例えばミスした場合には「皆ごめんね」など自分の弱みを認め、素直に謝ったほうが良いですね。
部下からは「普段偉そうにしているけど、謝るんだ」「厳しいこと言うけど、そういうところ憎めないよね」など、人間臭い上司ほど共感性や受容性が高まるかもしれません。
1on1でお悩みの方は前出の質問事項を参考に自問自答してみてはいかがですか?
アタックスでは「アタックス経営コーチング」サービスをご提供しております。
筆者紹介
- アタックスグループ主席コンサルタント (一財)生涯学習開発財団認定コーチ 岡田昌樹
- 1985年 名古屋商科大学卒。入社以来、一貫して税務関係業務に従事する。専門性の高い税務を噛み砕いて判りやすく指導する事に定評があるとともに、幅広い顧客のサポートをしてきた経験から最近では特に中小企業が抱える諸問題の相談に軸足をおいて活躍中。「face to face」を基本に、社長の身近な存在であり続けることがモットーである。
- 岡田昌樹の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。