経営学者のP.F.ドラッカーが、その著書「経営者の条件」で、エグゼクティブが成果を上げるための8つの習慣を述べた後、次の言葉を付け加えているのをご存知でしょうか。
「8つの習慣にもう一つおまけを加えたい。
余りに重要な事なので、原則に格上げしたいくらいである。
聴け、話すな、である。」
先日、日本話し方センターが主催する話し方教室で、ある受講生が次のようなスピーチをしました。
その人は職場ではベテラン社員で、後輩の仕事振りや仕事に対する姿勢が甘いと感じ、毎日後輩にダメ出しをしてはぶつかっていました。
そんな日常に疲れ果て、自分のコミュニケーションを見直そうと思い立ち、話し方教室に通ったのです。
そして、見事に後輩達との人間関係が改善し、人生が変わった、という話をしてくれました。
この人が職場の人間関係を変えることができたポイント、それが、「人の話を聴く」ということだったのです。
それまでは、一方的に後輩に厳しく指導するだけで、後輩達の話は殆ど聞きませんでした。
しかし、話し方教室で「話し上手は聴き上手」ということを学び、職場で後輩達の話をしっかり聴くことを実践したのです。
その結果、職場での人間関係が劇的に改善したということでした。
皆さんは、職場での上司や部下、家庭ではご主人や奥様の話を途中で遮らずに、最後までうなずきながら、聴いていますか?
実際は多くの人が、こうした聴き方はできていないようです。
こう言われると、いやいや、自分は人の話を聞いているよ、と思う方も多いでしょう。
しかし、そういう人でも、他の人からは、あの人は話を聞かない人だ、と思われていることがよくあります。
人は自分のことは驚くほど分かっていないのですね。
相手が、ちゃんと話を聞いてもらった、と思うまで人の話を聞く。
これは、ちょっとしたポイントを理解した上で、常に意識しないとなかなかできません。
話の聴き方は、ここでは詳しいことは割愛しますが、私が大切だな、と思っていることは、自分の感情を横に置いて相手の話を冷静に聴く、ということです。
人は内面に、感情的な側面(「自我」)と、客観的に自分を見つめる側面(「自己」)がある、と言われています。
人の話を聴くとき、「自我」を抑え、できるだけ「自己」を意識して聴くことが大切です。
この効果は主に3つあります。
1つ目は、相手の考えがより適切につかめて、会話や議論を噛み合わせることができます。
人の話を「自我」で聴いていると、話の途中で、ああ、そういうことね、と話を早呑み込みしてしまいます。
そのうちに、自分の意見が言いたくなり、我慢できなくなって、相手の話しを遮ります。
話の真意はくみ取れず、話し手も気分を害してしまいます。
これに対して、客観的な「自己」で話を聴くと、最後まで聴く余裕を持つことができます。
話の趣旨を誤解することは少なくなり、丁寧に話を聴くので、相手の感情を害することもなくなります。
2つ目は、相手の話に感情的な反応を示すことが少なくなります。
感情的な「自我」で話を聴いていると、自分の話をしたくなり、相手の言っていることを否定してしまうことが多くなるようです。
そうなると、話し方も勢い、感情的なものになってしまいます。
しかし、客観的な「自己」で話を聴けば、自分の感情はある程度抑え込めるので、自分が話をする番になっても冷静に話すことができます。
3つ目は、相手と論理的に話ができるようになります。
人は感情的になると視野が急速に狭くなりますが、「自己」で客観的に話を聞いていると、相手はなぜそう考えるのだろう、という話の背景を考える余裕ができます。
その分、冷静に相手の真意を考えることができ、より論理的に話を進めることができます。
前出のP.F.ドラッカーは、他の著作でも度々、「聴く」ことの大切さを強調しています。
それだけ「聴く」ことが難しいことは確かですが、皆さんも、人の話を徹底的に聴き切ることを意識してみてはいかがでしょうか。
日本話し方センター主催の話し方教室では、話し方はもちろん、人の話を聞くことも含めた、いい人間関係の作り方を、実習を繰り返して身につけていただけます。ご興味のある方は是非こちらをご覧下さい。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 グループサポート本部 本部長
株式会社日本話し方センター 代表取締役社長 中小企業診断士
横田 章剛 - 1983年 神戸大学卒。メガバンクで、国内・海外の勘定系システムの開発、ガバナンス業務、銀行決算・銀行税務の取り纏めなどに従事。2007年 アタックスに入社し、グループ全体の経営企画、総務、経理、法務等の間接部門を統括。