目標管理の原点となる思想と問題点を考える~新年度の今こそ!

人材育成

筆者は人事コンサルタントとして、適正な評価を行うための「評価者研修」の講師を依頼されることが多く、最近は増加傾向にあります。

なかでも、目標設定に関する相談では、目標の妥当性、難易度判断の難しさに悩みをお持ちの企業が多数です。

4月に入り、上半期あるいは通年目標の設定時期を迎え、部下との面談がまさに始まるという方も多いのではないでしょうか。

今回は、「目標設定」をとりあげ、基本的な考え方について、改めて考えてみたいと思います。

ドラッカーが提唱した「目標管理」とは

まず、経営学者のドラッカーが提唱した「Management by objectives and selfcontrol(目標管理制度)」の思想から振り返ってみましょう。

英語表記を日本語の文章にすると、次の通りになります。

目標(objectives)を活用して(by)経営し(management)、そこに当事者の自己統制を求めましょう(and selfcontrol)

「評価制度」における「目標設定」と聞くと、目標値を達成しなければ評価が下がるため、まるでノルマのように感じている方も多いと思います。

しかし、ドラッカーの思想にはノルマという発想はなく、目標はあくまでより良い経営をするためのツールであり、自己統制によって達成するべきものと考えられています。

そもそも、ドラッカーは「目標管理制度」を人事評価制度のために考えたわけではありません。

やらされ感ではなく、自立(自分の意思で)と自律(自己を統制して)の視点で仕事に取り組むことが、チーム・組織の成果につながり、人間中心の経営を進めることになると考え、「目標管理制度」を提唱したのが始まりです。

つまり、働く皆が経営者や上司の指示を待つのではなくワクワクする目標を自ら掲げて、主体的に取り組むことが出来れば、成果が上がりますよ。

そうすれば、働く社員も、会社も、その先にいるお客様や社会も、全ての人がハッピーになるでしょう、という考え方です。

目標管理制度の導入が少ない背景と理由

しかし、残念ながら上記のような形で「目標管理制度」を運用している企業は少ないのが現実です。

筆者はこれまでの支援の経験上、上手くいかない背景や理由を、大きく以下の2つと考えています。

理由その1

目標を持つことに不慣れな社員にいきなり「目標管理」を取り入れた評価制度を入れる

例えば、今までトップダウンの経営をしてきた会社が、事業承継を機にボトムアップやミドルアップダウンの経営を目指し、人事評価制度を改定して「目標管理」を取り入れるというケースです。

社員は、これまでトップの指示に従って頑張っていれば評価され、報酬が上がっていたのに、いきなり自分で考えることを求められることになります。

筆者は、この様なケースの場合、定着するのに最低でも3年は期間を要すること、次世代トップと幹部には「目標管理」の正しい運用にコミットすることを求めます。

その前に、いきなり評価制度に紐づけずに、まず先に「目標管理制度」を導入し、目標達成に向けて仕事に取り組む、達成に向けた行動を楽しいと感じるプロセス管理や、褒める風土を定着させ、その上で評価制度に繋げるというステップが本来正しいと考えています。

つまり、「評価制度」が上手く機能していない会社には、一度、「目標管理」を評価から切り離すことを提案しています。

理由その2

チャレンジングなことと当たり前に行うことの区分ができていない

つまり目標の難易度調整の悩みです。

よく聞く話として、営業職は営業成績を目標設定するので、成果が分かりやすいし、自ずとチャレンジングな姿勢を求められるけれど、管理部門は成果がわかりにくく、定性的な目標のため、つい達成しやすい目標になりがちだ、という問題です。

再度申し上げますが、「目標管理制度」は、目標を掲げる社員自身がワクワクすることが重要です。

もちろん、経営とのベクトル合わせとして会社の期待とのすり合わせは必要ですが、あくまで「目標設定」のスタートは社員本人です。

しかし、どうしても評価されることが念頭にあると、ワクワクするチャレンジ目標ではなく、難易度の低い無難な「目標設定」で済ませているケースがあるのも事実です。

部下の掲げた低い目標設定を見逃さない

ある企業で、「新聞を毎日読む」という目標を掲げたケースを見たこともあります。

本人主体で考えることは正しいのですが、難易度の低い目標をそのまま上司が鵜呑みにして是正しないのは、正しい運用とは言えません。

これを回避する方法は、当たり前に行うべきこと、ルーチンとして日ごろ取り組むことを明確にしておくことです。

そうすれば、目標は当たり前に、ルーチンで行う業務以上のものを考えてください、と指導することができるようになります。

まとめ

最近、ダイハツや豊田自動織機など、不正に関連する不祥事がクローズアップされました。

その要因の一つとして開発納期を最優先した結果であると同時に、ワクワク仕事ができる文化ではなかったことが影響していると考えます。

「目標管理」を「ノルマ管理」の思想で展開した企業に明るい未来はないのではないでしょうか。

今回は改めて「目標管理制度」のあり方について振り返りました。

「目標設定」を成果獲得と社員成長のツールにしたいとお考えの皆さまに参考いただければ幸いです。

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筆者紹介

株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング 取締役社長 永田 健二
1999年 静岡大学卒。中期経営計画策定支援、組織風土分析支援、人事制度構築支援、人事制度運用支援などに従事。新入社員研修、中堅社員研修、管理者研修、各種個別研修など研修講師としても活躍中。
永田健二の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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