「労働施策総合推進法」の改正により、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。
大企業は2020年6月からすでに義務化され、中小企業は2022年3月31日までの期間は努力義務、同年4月1日から義務化されます。
「パワハラ防止法」法制化の背景
法制化の背景として、2016年に厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」や、都道府県労働局に対する相談件数の増加があります。
実態調査では、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した者が32.5%にのぼりました。また、都道府県労働局への「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は、2019年度には9万件を超えています。
これらの数値は、職場において働く人が、能力を十分に発揮することができない状況にあることを示しています。行き過ぎた行為は、個人としての尊厳や人格を不当に傷つけるなど、人権に関わる許されない行為であり、決して看過することはできません。
また、企業にとっても、職場秩序の乱れや業務への支障が生じ、労働生産性の低下、離職による人材喪失と、多大な経済損失が発生します。
パワハラ防止法の具体的な定義
パワーハラスメントは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
従って、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
職場の定義
事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
例えば、勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中など、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当します。
つまり、出張先や、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせ場所(接待の席も含む)等も職場であり、実際の判断においては、職務との関連性や参加者、参加が強制か任意かといった点も考慮して個別に行います。
労働者の定義
正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者が対象です。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。
優越的関係を背景とした言動とは
- 職務上の地位が上位の者による言動、同僚または部下による言動で、言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有していること
- 協力を得なければ業務を円滑に遂行することが困難であるもの
- 同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの
と定義されています。
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは
社会通念に照らし、言動が明らかに事業主の業務上必要性がないものを指します。
業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、行為の回数、行為者の数等、その様子や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動を指しています。
就業環境が害されるとは
その言動によって、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、対象となる労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、「同様の状況でこの言動を受けた場合に社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当です。
なお、言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的または精神的苦痛を与えるなど言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得ます。
具体的なパワハラの判例は、厚生労働省の「あかるい職場応援団」をご参考ください。
企業がとるべき対策とは!
今後も、新型コロナウイルスによる感染予防策として、テレワーク(在宅勤務)を継続する企業や、再開する企業が増えることが予想されます。これによって、職場ではパワハラにならなかった行為が、画面越しではパワハラになるようなケースが発生するのではないかと思います。
画面越しのコミュニケーションは、表情などの非言語的要素が伝わりにくく、言葉やものの言い方が、ダイレクトに相手に伝わるからです。より丁寧な言葉遣いでコミュニケーションを行うことが求められます。
今後、企業がとるべき対策は、
- 全社員に対してパワハラに関する法的な理解を促進させること
- 具体的な判例に基づく研修や、話し方に関する研修を行うこと
が必要です。
また、相談窓口を設けてパワハラのない風通しの良い職場づくりを宣言し、経営トップ自ら率先して啓蒙していくことが大切です。
筆者紹介
- アタックスグループ パートナー
- 株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング 代表取締役
- 中小企業診断士 北村 信貴子
- 1963年生まれ。中小企業診断士、産業カウンセラー。大手食品メーカー勤務後、アタックス入社。中堅中小企業を対象に経営診断や人事制度設計運用・人材育成業務に従事。現在は、後継者育成、管理者教育、女性リーダー育成を中心に実践型の教育訓練・能力開発に特に注力。講演・セミナー実績多数。受講者との対話を通じて理解を深めていく迫力ある指導には定評がある。
- 北村信貴子の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。