会社を揺るがす労使紛争は回避できる!~社内規程の見直し方

人材育成

吉本興業闇営業に見る問題の根源

「お前ら、テープ回してないやろな」
「全員連帯責任で首にするからな」
「俺にはお前ら全員首にする力がある」

吉本興業の闇営業問題により発覚した社長の発言が話題となりました。

関わっていた芸人が契約解消される中で、吉本興業側からは、
「若手芸人は自らの力で集客したわけでなく、先輩の力で集客したイベントに出演しているのだから、むしろ良い経験をさせてもらっていると考えて欲しい」
「口頭契約は、長い歴史の中で築かれた会社とタレントとの信頼関係の形」
などの発言がありました。

一方で、芸人側からは
「『吉本興業はこういう考えで、あなたとこういう風に契約しますよ』ということを、口頭でも聞いた覚えはないです。また、『会社にいくら入ってあなたの取り分はこうです』とか、他の問題に関しても何の説明も受けていない」
といった発言がありました。

どちらが悪いのか分からない、もしくはいずれも悪いのではないかと考えていた方も多いと思います。

私は、結局のところ、会社と芸人との契約内容が明確になっていなかったこと、又は契約内容を書面で通知していなかったことが今回の争いの根幹にあると思っています。問題の発端となった闇営業自体も、禁止されていたのか不明瞭です。

仮に、芸人を個人事業主とすれば、営業に関して吉本興業が口出しすることは筋違いであり、芸人は当然の権利を行使したと考えたほうが合理的です。

そうではなく、芸人は会社の従業員だとすれば、会社を通じた業務にしか従事してはならないという会社の主張には、合理性があります。

しかし、この場合でも、労働契約の内容を書面で通知していないことは法違反であり、かつ芸人に対する契約解消の根拠規定がないため、懲戒権濫用と考えられます。このような労働契約上の問題は、一般企業にも起きる可能性が高まっています。

このような問題が起きないようにするためには?

現在、多くの企業では、働き方改革関連法の施行により、労務管理(例:長時間労働の是正、年次有給休暇の取得、同一労働同一賃金対応)の徹底が経営上の重要テーマになっています。

このような取組みを進めていく中でも労使紛争が発生する恐れがあるのです。

例えば、“仕事の段取りや調整ができていないのに年次有給休暇を取得しようとする従業員に対して指導したところ、「私の仕事ではない」と反論してくる”や“仕事を調整した上で残業を禁止したにも関わらず、勝手に残業をする”などが発生した際に、会社が強めの指導を行ってしまい、争いに発展してしまうことはよくあります。

このようなことが起こるのは、会社と従業員の権利、義務があいまいで、業務範囲や業務命令に関して双方に認識のギャップがあることが原因です。

労使紛争には、それに対応するコスト負担や、組織の風土の悪化、人材の流出など、様々なリスクが存在します。

働き方改革関連法への対応は会社にとって重要テーマですが、まずは足元を固める意味でも労使紛争を防止することが重要ではないでしょうか。

そのためには、業務遂行に関する権利や義務について、会社と従業員の双方に認識相違が起こらないような契約を締結する必要があります。

しかしながら、このように契約すればよいということは労働基準法上特に定められていません。つまり、各社で契約内容を検討する必要があるのです。

労働基準法第15条で一定の事項に関しては労働条件を明示しなければならないと規定されていますので、少なくとも下記の事項は労働者と互いに確認する必要があります。

■必ず明示しなければならない事項■
(1)労働契約の期間
(2)就業の場所・従事する業務の内容
(3)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、
 休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換
  (交替期日あるいは交替順序等)に関する事項
(4)賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
(6)昇給に関する事項

■定めがある場合には明示しなければならない事項■
(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、
  計算・支払の方法、支払時期に関する事項
(8)臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
(9)労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
(10)安全・衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰、制裁に関する事項
(14)休職に関する事項

この中で労使紛争を防ぐため明確にしておくべきポイントは、(2)の従事する業務の内容です。

一般的には“事務作業”や“営業活動”などと抽象的な表現で記載してありますが、どのようにも受け取れる表現にしてしまうことが認識のギャップを生み出す原因となります。

また、あわせて就業規則も整備し、会社の秩序を維持するためのルールや、従業員が義務違反をした場合の制裁罰(上記の明示事項では(13)の制裁にあたります)も明記することが大切なポイントです。

会社が法律を遵守することは当然のことですが、是非とも会社と従業員の権利と義務を明確にしていただくために、自社の就業規則や労働契約をご確認ください。

弊社では社会保険労務士を複数擁し、労働法のプロフェッショナルとして、豊富な他社事例をもとに労務管理についてアドバイスが可能です。
上記内容をご確認、ご検討いただく際に、お困りでしたら、こちらのフォームから弊社までお気軽にお問合せください。

筆者紹介

株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング 社会保険労務士 吉崎 英利
1989年7月生まれ、山口県出身。社会保険労務士事務所勤務を経て、アタックスに入社。前職では、社会保険手続や、就業規則改訂支援、労務相談等に従事。現在は、人事制度構築や就業規則改訂などの支援業務を通して、社長の最良の相談相手となるべく精進中。趣味は筋トレ。

タイトルとURLをコピーしました