私が代表を務める日本話し方センターでは、個別のご依頼にお応えして、社内研修も行っています。
先日、ある会社の社内研修で私が講師を務めました。研修の終わりに、研修の感想をグループで話し合ってもらい、その内容を、全員の前で発表してもらいました。
「今日教えてもらった内容は、本で読んだことがあったり、テレビで聞いたことがあったりして、どれも目新しいものはありませんでした・・・」とここまで話した後、「あっ!すみません!!!違うんです!そういうことじゃなくて、知っていることでも自分でやってみるとできていなかった、そのことに気付いたことが大きな学びだった、ということが言いたかったんです!すみません!!!」発言した方は、かなり慌てて付け加えられました。
皆さんも自分の話が意図と異なる受け取られ方をされそうになり、あわてた経験があると思います。では、上の例では、どういう話し方をすればよかったのでしょうか?
そのキーワードが、「主題」です。「主題」とは、自分が言いたいことをまとめた短い文章、のことです。上の例による主題は何かというと、「今日の研修では大きな気付きがありました。」です。
これによって聞き手は「ああ、この人はポジティブな話をするんだな」と理解し、たとえ出だしがネガティブな話でも変に受け取ったりしないでしょう。その結果、話し手も誤解される心配なく自分のペースで話ができたと思います。
主題を始めに言うことで、聞く人はどういう話をするのかがわかり、相手の話を聞く準備ができます。いわば、相手の頭の中に、話を受け入れる箱をつくることができるのです。そして、その箱をつくってから、具体的な話をすることで、聞き手は安心してその箱に話の内容を入れることができます。つまり、しっかりと話を理解できるわけです。
主題は、短い文章にすることがとても重要です。人間の短期記憶は多くのことは覚えられません。電話番号の7桁がせいぜいという説もあるほどです。長い文章だと聞き手は最初に聞いた言葉を覚えられず、頭の中に箱をつくることができません。漢字と仮名含め20文字以内、できれば15文字以内が適切です。
ところで、ここまで読まれた方の中には、「なるほど、要は結論から先に言え、ということだな」と思われた方もいらっしゃると思います。しかし、「主題」は結論よりも幅広い概念です。
例えば、誰かに相談をする場合でも主題は大切です。「ちょっといいですか。会社のルールが変わるので、この事務手続きも変えないといけないと思って担当部署に確認したんです。そしたら○○ということだったんですけど、それではよくわからないので別の人に聞いたところ~~」と自身の行動を時系列で話し始める人がいます。
聞いている人は「だから何が聞きたいの?」と思いながら我慢して途中まで聞いています。聞きたいことを懸命に推測しながら聞いているので話に集中できません。話の始めに「誰に相談したらいいか迷っているんです。」と言えば、聞き手は、適切な相談者をアドバイスすればいいのだという心の準備ができるので、安心して話を聞くことができます。
また、朝礼のスピーチなどでも、いきなり詳しい話を始める人もいます。「この間、山陰地方に旅行に行きました。泊まった旅館は、夕食はおいしかったのですが、部屋が今一つきれいではありませんでした。~~」と延々と事実を話すことがあります。
聞き手は「で、何が言いたいんだろう?」とずっと考えながら聞くので少なからずストレスを感じてしまいます。この場合も
「よく調べてから行動しよう、という話をします。」と、話の方向性を示してから具体的な事実を話せば、分かり易い話になるでしょう。
話は「相手ありき」です。相手が話を聞く準備ができるように心を配ることは、聞き手に分かり易い話をするためにとても重要です。そのポイントの一つとして、今回は「主題」というキーワードをご紹介しました。
相手にわかりやすい話しをするポイントはいくつかあり、それぞれが、奥が深いものです。日本話し方センターのベーシックコースでは、それらのポイントをお伝えし、実践的なトレーニングを繰り返すことで確実に話す技術を身につけていただくコースです。
人前で話をするのが苦手、何が言いたいのか分からないと人に言われる、という方、
是非ベーシックコースで話し方を学んでみてはいかがでしょうか?
筆者紹介
- 株式会社日本話し方センター 代表取締役社長 中小企業診断士
横田 章剛 - 1983年 神戸大学卒。メガバンクで、国内・海外の勘定系システムの開発、ガバナンス業務、銀行決算・銀行税務の取り纏めなどに従事。2007年 アタックスに入社し、グループ全体の経営企画、総務、経理、法務等の間接部門を統括。2016年、日本話し方センターの代表取締役社長に就任。研修等で話し方の指導に従事。