筆者は人事コンサルタントとして、期待する人材の要件定義の設計や、その要件レベルへと育成するための業務標準手順書の作成支援を行っています。
最近、上記に関わるご相談が増えてきましたので、基本的な考え方や注意点についてお伝えいたします。
業務の見える化を進める企業の背景
ご相談の背景は、各社さまざまです。
- 建設業界で施工管理技士が不足していて育成のためのツールが欲しい。(一部自治体ではキャリアアップの取り組みを発注時に評価するところも出ているようです)
- 10人程度の規模から50人規模に急拡大して仕事が細分化してしまった。標準化と多能工化のツールが欲しい。
- ジョブ型の人事制度を導入するにあたり成果と業務手順を明確化するためのツールが欲しい。
- コロナ禍でリモートワークなど柔軟な働き方を導入したが、仕事の進め方にバラつきが生じ、一部不適切な仕事の仕方も見受けられる。規律を正すツールが欲しい。
などです。
業務の見える化に使われるツールとは
業務の見える化に使われるツールは一般的に下記のものがあり、それぞれ目的や資料ボリュームに違いがあります。
部署間の役割分担調整が主な目的です。配属部署限定の採用面談の際に、仕事の紹介をすることにも使えます。一般的に一部署毎にA4縦サイズで1~2枚で書き出されます。
決められた標準手順に沿って業務を行えるか、指導教育や品質チェックに使うことが主な目的です。業務分掌に書き出された業務毎にA4縦サイズで1~2枚で作成しますが、業務分掌に表記された項目を細分化して作ることもあります。
取り扱い説明書レベルの詳細さで表記されるもので、誰がやっても同じ成果が出せるようにすることが主な目的です。画像やイラストも用い、手取り足取り細かく表現されるので、業務毎にA4縦サイズで10枚以上になることも珍しくありません。
言葉遣いは各社異なりますので、業務標準手順書がマニュアルレベルになっていても問題ありません。
作成時の注意事項
注意いただきたいのは以下の2点です。
①いきなり網羅性を求めてしまう
急拡大したベンチャー企業や業務に関する見える化ツールが全くない会社に見受けられる傾向です。
もちろん網羅性が必要ないわけではありません。
無印良品のように徹底した仕組み化は素晴らしいと思います。
資金が潤沢にあって外部に作成を依頼する等、一気に網羅性を実現することができるなら止める理由はありません。
ただ、自前で作成する場合、通常業務をこなしながら、見える化ツールを作るということになります。
この場合、網羅性は一旦忘れて、できるところからの発想が重要です。
本来解決したい悩みから逸脱し、網羅性実現に没頭すると、手段が目的化しかねません。
例えば、「この人しかできない」という属人化された業務を、皆でできるようにするために始めた取り組みなのに、業務の洗い出しに「完璧」を求めて、時間をかけて綺麗にリストアップしたことに満足して(あるいは疲れ果てて)本来やるべき育成のための取り組みがされないというケースです。
筆者としては見える化ツールのフォーマットすら統一不要と思っています。
②イレギュラー業務の見える化まで始めてしまう
トラブルシュータ―の人が輝いている会社で見受けられる傾向です。
あの人に頼めばどんなトラブルも解決してくれるよね、というケースです。
もちろん、トラブルシュータ―のスキルを多くの人に持たせることができれば生産性は上がるでしょう。
ただ以下の視点で、業務の切り分けが必要です。
レギュラー(標準)業務 ⇔ イレギュラー(異常)業務
人材育成ツールとして業務標準手順書を作る場合、定期的or頻度多、かつレギュラー(標準)業務に絞って作ることがお勧めです。
しかし、頻度の多い、異常業務まで手順書を作りたがるケースを見受けたりします。
時間に余裕があるなら、生産性向上につながるとは思いますが、本来、その異常業務自体を少なくすることが重要です。
通常業務を誰でもできるようにして、トラブルシュータ―の方に異常そのものを少なくする取り組みをしてもらいましょう。
あるいは、多くの人に、基礎的な問題解決知識やQC手法を勉強してもらうことの方が、効果が高いです。
マニュアル化の要否を正しく見極めることが重要
また、不定期or頻度少かつ標準の業務はマニュアルにしておくと成果再現性が高まります。
数年に一度しか実施しない検査作業などです。
クレーム対応マニュアルは不要なのかと聞かれることもありますが、例えば小売業では、不特定多数の方が日々訪れますので、クレームは残念ながらゼロにはできません。
不定期ですが、一定確率で発生する通常業務でしょう。
トラブルシューティングではありますが、クレーム対応マニュアルは否定しません(製造業では不要と考えます)。
ちなみに、不定期or頻度少、かつイレギュラー業務は、業務の見える化というよりもBCPで考えるべき対象かと思います。
同一労働同一賃金対策として、正規社員と非正規社員の業務差を明確にするために、イレギュラー業務まで含めて、一気に網羅的な見える化ツールを作ることもあります。
そもそも、標準化、マニュアル化が会社の文化にそぐわないというケースすらあります。
解決したい事柄や、見える化の目的に照らし合わせて、自社に合った取り組みを考えてみてください。
アタックスグループは、人財採用基準設定から人財教育、人事制度設計・運用に関して、クライアントの皆様の顕在的・潜在的課題の解決を実現できるよう、サポートさせていただきます。
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筆者紹介
- 株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング 取締役副社長 永田 健二
- 1999年 静岡大学卒。中期経営計画策定支援、組織風土分析支援、人事制度構築支援、人事制度運用支援などに従事。新入社員研修、中堅社員研修、管理者研修、各種個別研修など研修講師としても活躍中。
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