AIJ投資顧問株式会社の企業年金消失問題は、虚偽の運用実績を示し勧誘したとして大きな社会問題となっています。この会社の決算書がどのようになっているのか、会社のホームページで公表している「第22期事業報告書(2010年1月1日から2010年12月31日まで)」を確認してみると以下のとおりでした。
自己資本比率97%で、そのほとんどの資産が流動資産であり、売上高経常利益率は81%で、数値だけみるとすごく業績の良い会社にみえます。しかし流動資産のほとんどが未収入金(328,929千円)であり、かつ営業利益は大幅な赤字、営業外利益334,463千円を計上することにより、経常利益を黒字としています。
もし営業外収益で計上している金額が、ほとんど未収入金であると仮定すれば、実態はどうなのか非常に疑問の残る決算書といえるでしょう。これだけの資料では、虚偽の運用実績と決算書の関係は明確にはできませんが、粉飾された決算書である可能性も否定できません。
イメージ経営者は、粉飾した決算書を一度作成すると大きな罠に陥ります。
特に同族経営の中小企業の場合、決算書を提出する先は、銀行・税務署がほとんどであり、銀行は粉飾がわかっていても返済が滞りなく行われる限り問題としませんし、税務署は粉飾され利益が多く計上されている決算(所得)についてあえて訂正を求めません。
そうなると経営者は、粉飾された数値が会社の実態とはなれたものとわかっていても、いつのまにか慣れてしまうことがほとんどです。本来取り戻さなければいけない本当の姿を追うことをやめてしまい、どんどん深みにはまってしまうことが一番恐ろしい粉飾の罠だといえます。
粉飾は虚偽であり、虚偽はいつまでも続きません。経営者は、何らかの理由で粉飾をせざるを得ない状況となったとしても、安易に粉飾という方法をとらないようにすべきです。仮に行ってしまった場合は、必ず経営者自身の身を切る形で処理をして、翌期には実態に戻すようにし、決して甘い考えに流されないように律し続けることが大切です。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 愛知 吉隆
- 1962年生まれ。中堅中小企業から上場企業に至るまで、約800社の税務顧問先の業務執行責任者として、税務対応のみならず、事業承継や後継者支援、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。
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