「不良債権予備軍」といわれる「その他要注意先」に対する貸出金が約5年で1.5倍に拡大しているという。
金融機関は各取引先を信用状態の良好な順に、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先に区分している。要注意先は、更に条件緩和等を行っており特段の管理が必要な要管理先とそれ以外のその他要注意先に分けられる。日銀の調査によると、今後不良債権になりうる可能性がある「その他要注意先」の債権の残高が急増しているという。
この要因のひとつに、リーマンショック以降に中小企業の資金繰りを支援する目的で行った上述の債務者区分における基準の緩和がある。金融機関は、債務者区分ごとに引き当てるべき貸倒引当金の率が異なる。そのため、債務者区分が下がってしまうと引当率が上がって損失が発生するので、金融機関は当該債務者に対する融資条件を厳しくせざるを得なくなる。
上述の施策は、債務者区分が下がる基準を緩和することによって、金融機関が返済条件の変更や新規の貸し出しを行いやすい状況を作り出し、間接的に中小企業の資金繰りを支援するよう仕向けたものである。よって、誤解を恐れずにわかりやすく言えば、会社の実態は変わらなくとも、一定の要件を満たしていれば不良債権の扱いをされなくなるという施策を講じたのである。
この施策はリーマンショックという未曾有の危機に対して、倒産の抑制という一定の成果をあげたと思われる。しかし、それによって生じた不良債権予備軍の増加を、記事では副作用と呼んでいる。金融機関の財政状態の実態をわかりにくくすることは、1990年代後半の金融不安を再燃させることになり、このままの状況を国が放置するとは考えにくい。
現に、2011年8月に金融庁が公表した平成23事務年度の金融機関の監督方針には、金融円滑化法に基づいて条件緩和した先について、抜本的な再建計画の策定やその進捗を重点的に検証することが謳われており、国の施策に変化が見られる。
筆者が企業再生の現場で遭遇する経営者のなかには、借り入れが収益力に比して過大になっていたり、年間の約定弁済額をはるかに下回るキャッシュ・フローしか生み出せない状況にありながら、金融機関は支援をしてくれているから問題ないと言う経営者がいる。
しかし、今後、今までは金融機関が貸し出しや条件の緩和に容易に応えてくれていたのに、急に態度が硬化することが十分にありうる。経営者はきちんとそのことを理解して、与えられた猶予期間に、懸命に経営改善に取り組む必要がある。
<参考記事>
「不良債権『予備軍』44兆円」2011年10月10日(月)日本経済新聞 朝刊
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 中小企業診断士 伊原 和也
- 1996年 武蔵大学卒。大手ノンバンクを経てアタックス入社。中堅中小企業を中心に企業再生支援、M&A支援、中期経営計画策定支援および株式公開支援等を中心にプロジェクトマネージャーとして活躍中。
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