前回、貸借対照表は会社の歴史そのものというお話をさせていただきました。今回はもう少し広く考え、決算書はなぜ会社経営とって必要なのかを考えてみたいと思います。
ある社長とお話をしていたときです。決算書は難しい言葉がならび非常に難解だ。あれは、経理部長が法人税申告書作成のために作成するようなものだ、と言われました。加えて、過去の数値をいくら分析しても、過去は変えられないじゃないか、とも。
本当にそうでしょうか?
例えば、小売業のA社とB社があったします。簡単な財務数値は下記のとおりです。
どちらの経営が優れているかと問われた場合、どちらだと思いますか?
素直に考えれば、同じであると、私は答えます。なぜならば、本業の儲けを示す営業利益が同じだからです。
では、この差はどこにあるのでしょうか?
経営戦略の差です。A社は、高い付加価値の商品をいろいろな経費をかけて事業運営をしていると予想できます。B社は、薄利多売の事業を徹底し、安い商品を経費をかけずに事業運営していると予想されます。でも、両者は、同じマーケット(同じ小売業という意味で)で、同じ本業の儲けを計上しています。
戦略が違えば数字も変わってくる、ということです。
決算書は過去の事実(結果)を表しています。だからこそ、自分たちの立てた戦略どおりに経営が実行できたかどうかを、客観的な事実にもとづいて、確認することができます。つまり、決算書を使ってはじめて、経営の王道であるPlan(計画)‐Do(実行)‐Check(検証)‐Action(再実行)サイクルを実行することができます。
JALを再生させた稲盛会長は、その著書「実学 経営と会計」の中で以下のように述べられています。
「会計の分野では、複雑そうに見える会社経営の実態を数字によってきわめて単純に表現することによって、その本当の姿を映し出そうとしている。もし、経営を飛行機の操縦に例えるならば、会計データは経営のコックピットにある計器盤にあらわれる数字に相当する。計器は経営者たる機長に、刻々と変わる機体の高度、速度、姿勢、方向を正確かつ即時に示すことができなくてはならない。そのような計器盤がなければ、今どこを飛んでいるのかわからないわけだから、まともな操縦などできるはずはない。」
決算書を含めた会計データを活用しないと、会社経営はできないということです。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士 林 公一
- 1987年 横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継や後継者・幹部社員育成のサポートに注力。
- 林公一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。