日本企業による海外企業のM&Aが増加している。増加の背景には、景気の長期低迷や人口減少など国内市場の将来性が見えないことにより、海外に活路を見出す企業が増えていることが要因として挙げられる。
日本国内においては、税率の高さや、労働規制、電力問題、自由貿易協定など国内への投資にリスクを感じているとともに、新たなマーケットを取り込んでいかないと成長性が維持できないという危機感もある。さらに今の円高がさらにM&Aの追い風になっている。
輸出企業にとって、現在の円高は単純に収益を圧迫する要因となっているものの、一方で海外へのM&Aを含む投資に対しては、海外企業の株価低迷も受け、投資金額を抑制できる環境にあり、チャンスと捉えることができる。また、国内の銀行では、M&Aに対して新たなセクションを設けるなど、積極的な姿勢が見受けられ、海外のM&Aを後押しする状況にある。
買収資金については、MBOやLBOなど銀行や投資ファンドから資金調達をするスキームを活用することにより投資効率を高めることができ、自己資金が潤沢になくとも、投資ができやすい環境にあり、ビジネスチャンスであるといえる。大企業だけに限らず、中堅企業でもM&Aがとりざたされており、海外への投資が経営戦略の有効な手段であるといえる。
ただし、過去のM&Aは失敗しているケースのほうがむしろ多く、投資金額というよりは、文化の違いによって買収後の成長戦略が軌道に乗らず失敗に陥るケースも多い。極めて慎重な投資判断が必要であるといえる。中堅・中小企業にとってもM&Aは1つの選択肢であるといえるが、大企業とは異なり、経営資源に制約を受けることから非常に難しい。
企業再生に携わる仕事をしていると、業績悪化の要因が投資の失敗であるケースが非常に多い。投資後に赤字による資金流出が続き、建て直しが難しくても撤退もできない状況にあるなど、そういった状況に陥らないとは限らない。
あらかじめ撤退基準を決めるなど、またリスクを最小限に抑えられるような事前準備が必要である。再生企業の中には、その投資さえなければ財務状況も健全であったというケースも多い。むしろ、経営資源を集中して国内の既存事業に投じることが今必要かもしれない。
中堅・中小企業にとっては、経営資源が分散するリスクを十分に考慮した上で、慎重に投資判断を行う必要があるだろう。
<参考記事>
「海外M&A隆盛期に」2011年9月30日(金)日本経済新聞 朝刊
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 坂井 啓宏
- 1999年 滋賀大学卒。中堅中小企業の業績管理制度構築や事業計画策定等のコンサルティング業務に従事。中小企業再生ファンドの運営にも携わる。現在は、デューデリジェンスや計画策定等の企業再生支援、株式公開支援、買収監査や企業価値評価等のM&A支援を中心にプロジェクトマネージャーとして活躍中。
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