社会的な懸念が高まる、中小企業の為替デリバティブ問題

会計

メガバンクが、為替デリバティブ(金融派生商品)で多額の損失を出している中小企業への資金対応を前向きに検討しているという。

記事中の為替デリバティブとは、米ドルなどの外国通貨を一定の時期に一定の価格で受け渡すことを契約時点において約束する取引で、長期間かつ同一相場の外国為替の先物予約取引が一般的だ。企業はこれによって将来の為替変動リスクに影響されず、一定のコストで外貨を購入し続けることが可能になる。

将来の為替リスクをヘッジしたいという企業の意向を受け、銀行がこの金融商品を積極的に販売したこともあり、輸入を行う企業を中心に円安局面にて導入が進んだ。

ところが、2007年頃からサブプライムローン問題やリーマン・ショック、ギリシャ危機などが相次いで起こり、円が他の通貨に対して急速に上昇したのはご案内のとおりだ。

円安期に為替デリバティブを契約した企業が今、大きな影響を受けている。
たとえば
①契約の行使レートが現在の相場に比べ相当不利な状況にある、
②「履行時点の為替相場が○○円以上の円高になれば買い取る外貨が増える」という契約になっている、
③不況により実需自体が萎んでしまった、など二重三重の苦しみを負っている企業も多い。

帝国データバンクの調査によれば昨年の円高関連倒産は58件、うちデリバティブ損失による倒産件数は25件と、いずれも一昨年を大幅に上回っているという。急激な円高局面で損失が膨らみ、資金が手当てできずに倒産にいたる企業が増えているようだ。金融庁が銀行から聞き取り調査をしたところ、昨年9月末の時点で1万9千社の中小企業に4万件の契約が残っているという。

それではこのような企業はどのように対応すべきか。
長引く円高局面にあって、中小企業の為替デリバティブによる損失・資金繰り問題はいよいよ社会的な懸念となりつつある。損失の度合いによっては悩ましい問題ではあるが、現在施行されている金融円滑化法の趣旨ともあわせて考えれば、この問題で資金繰りに支障をきたしていたとしても本業できちんとキャッシュフローを生み出している企業には道筋が開ける可能性が充分にある。

銀行に対しては、デリバティブの損失額とこれを除いた本業の黒字を明確に分別して説明し、必要であればこれらをふまえた経営改善計画を策定して相談してみることをお勧めする。デリバティブの決済差損によって手許資金が枯渇してしまわないよう、早期の対応も必要だ。

平時と同様、銀行に対してはきちんと情報を開示・説明し、良好なリレーションを保っていくことが大切だ。

<参考記事>
「為替商品で多額の損失 中小企業に特例融資 3メガ銀、金融庁の行政指導」
2011年1月19日(水)日本経済新聞 朝刊

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 廣瀬 明
1968年生まれ。企業再生、財務・事業デューデリジェンス業務、M&A、株式公開のサポート等に従事。中堅中小企業への豊富な支援業務を通じて培った知識と経験を活かし、現在大阪事務所のプロジェクトマネージャーとして活躍中。
廣瀬明の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました