最近、日経新聞に、JAL再生が連載されるなど、稲盛氏の経営手腕の素晴らしさがあらためて(何度も)認識されています。しかし、その記事を読むと、稲盛氏は特別なことをされたわけではなく、「経営者が考えるべきことをきちんと伝え、組織に浸透させた」ということがわかります。JALという会社が経営の定石をはずしていたといってもよいでしょう。
イメージ経営者が考えることで一番大切なことは、「ビジョンと目標を示し、必ず達成する(させる)道筋を示す」ことです。もちろん、目標を達成させるよう社員を動かすことも重要です。
ここでは、目標を達成させるために稲盛氏があみ出した、アメーバ経営について考えてみましょう。
アメーバ経営についてはすでにご存知のとおり、株式会社A製作所という一つの会社の中に、沢山の中小企業を仮想で作り、独立採算を追求する仕組みです。したがって、社内には沢山の中小企業の社長がいて、目標利益を達成するために切磋琢磨するという仕組みです。
アメーバ経営のよいところは、(1)見える化=会社のどこで、どれだけ儲かっているのかが分かる、(2)教育効果=社員の経営参画意識が高まる。(3)迅速性=細かく採算を取ることで、改善の打ち手が早く的確にできる、などが上げられます。
では、どの会社もアメーバ経営を採用したらよいと思うわけですが、これをやり切るのは大変な労力(覚悟)が必要になります。社内での売り買いが発生します。その価格を決めなくてはなりません。一方で、儲かった損をしたと互いを誹謗中傷する組織では運用できません。
そして、それを集計する会計の仕組みが必要です。あわせて、人事評価に連動させないと各社長は報われません。したがって、非常によい経営手法なのですが、誰でもやれるものではないのです。
しかし、アメーバほどではなくても、ぜひ中堅中小企業の経営者の皆様には取り入れていただきたい手法があります。会社でできるレベルに合わせた「管理会計」で業績を管理することです。会社は機能組織になっているはずなので、その機能ごとに業績を把握するなどすれば、どこで儲かっているか、損しているかがひと目でわかります。
また、組織の長(部門長)に利益責任と権限を持たせることによって、経営参画意識を高めることも出来るでしょう。
更に、ぜひ経営者の皆様に実行していただきたいことがあります。それは、「経営会議」の活性化です。恐らく、毎月業績を検討する会議を開催しておられることと思います。その会議で、管理会計によって作成した月次決算を資料にすれば、各組織のセグメントごとの業績を各部門の責任者が確認できることになります。
しかし、会議の目的は業績を確認するだけではありません。それなら、わざわざ集まらなくても、資料を配っておくだけで十分です。会議では、各部門長には、つぎの2点を徹底してください。
(1)目標と実績の差異の原因分析
(2)目標が未達であったら達成に向けた具体的対策
この2点を発表するためには、部門長が自部門の売上やコストを十分に分析し、自社や得意先の動向を把握しておく必要があり、部門長には相当な負担がかかります。一方、他の部門長は、全社の視点で自部門はもちろん、他部門の目標達成の課題をアドバイスします。
もちろん、経営者は各部門が目標達成できるよう的確な指示や支援ができなくてはなりません。もはや今の時代は、全社がこれらを行わずに、業績が目標達成できる時代ではなくなっています。
経営のPDCAのうち、Cを「管理会計」によって実態把握し、原因分析を徹底して、次のAに繋げていくことが肝心です。これが月次の会議の目的であり、社長の仕事ではないでしょうか。
また、このPDCAを実直に回し続ける会社が生き残る、と確信しています。
筆者紹介
- 株式会社アタックス戦略会計社 代表取締役会長 片岡 正輝
- 1952年生まれ。アタックス税理士法人の前身である公認会計士今井冨夫事務所に入社。現在は、アタックスグループの統括マネージャーとして、広範囲な知識と豊かな経験という両輪を武器に、経営・財務・会計業務を中心に計画経営の推進、経営再構築、事業承継等のコンサルティング業務に従事、経営者の参謀役として絶大なる信頼を得ている。
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