2年程前に、あるファンドの担当者とお話をしていたときの会話です。
担当者:「林さん、私は無借金の会社に投資するのが好きなのです。」
林:「そりゃそうですよね。無借金の方が潰れにくいので、安全な投資先と言えますよね。」
担当者:「そうじゃないのです。この無借金の会社を築くことができたビジネスモデルのすごさと、それを実現した社長さまの苦労が貸借対照表に、にじみ出ていることを感じるのです。」
今まで、多くの決算書と向き合い分析をしてきました。
しかし、貸借対照表をビジネスモデルとリンクさせて意識したことはありませんでした。
その意味で、もの凄い衝撃を受けたのを覚えています。
ビジネスモデルについては、よく損益計算書との関係で考えることはあります。
粗利がどうだとか、販売費および一般管理費率や結果としての営業利益率がどうだ、とかの話です。
この損益計算書は、1年でリセットされてしまいます。
すなわち、今期どれだけ利益が計上されてもされなくても、来期になればゼロからのスタートです。
しかしながら、貸借対照表は違います。
損益計算書のように今期よくなかったから来期がんばりましょうといって、来期がゼロからのスタートにはなりません。
今期1億円の赤字を計上したケースを考えてみましょう。
損益計算書上では、当然、今期の損益計算書上には1億円の赤字が計上されます。
来期の損益計算書は、1億円の赤字からスタートするのではなくゼロからスタートし、1年間で黒字が計上できたのか、または赤字だったのかを測定していきます。
このように、損益計算書は毎期リセットされます。
しかしながら、貸借対照表は、そうはいきません。
一度1億円の赤字を計上すると、その分だけ純資産の部がマイナスになります。
そして翌期の貸借対照表純資産は、前期1億円マイナスからスタートします。
このように、過去の積み上げが貸借対照表なのです。
例えば、貸借対照表上に借入金が計上されているケースを考えてみましよう。
過去に借入や返済を繰り返している企業があります。
期末の段階で返済できない借入金があるので、貸借対照表上には借入金が残っています。
もし、借入金を全額返済していれば、借入金残高は貸借対照表上残りません。
例えばもし、会社の運営方針として借入金ゼロを目指す会社をつくろうと思えば、儲かったキャッシュフローの範囲内でしか設備投資をしないという方針(企業行動)を貫いていくことが必要になります。
つまり、貸借対照表は過去の企業行動の積み上げであり、結果的には会社の歴史を現していると言えます。
財務的に経営をとらえれば、究極的にどんな貸借対照表をつくるかが、経営そのものとも言えるのではないでしょうか。
皆さんは将来の自社の貸借対照表が見えていますか?
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士 林 公一
- 1987年 横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継や後継者・幹部社員育成のサポートに注力。
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