膨らむ中小企業の現預金保有額とその背景
日本の中小企業の現預金保有額が上昇しています。
財務省の法人企業統計によると、資本金が1千万円以上、1億円未満の中小企業が保有する現預金は、2023年3月末時点で132兆円と、10年前に比べて約1.6倍の水準に、総資産に占める現預金の比率は21.9%となっています。
2008年のリーマン・ショックもこの比率を押し上げましたが、長期的な傾向として上昇が続いています。コロナ禍で行われた政府の危機対策である、いわゆる「ゼロゼロ融資」で更に現預金が積み上がりました。
中小企業が現預金をため込み続けるのは、物価や人件費の上昇など、先行きの景気を警戒して保守的になっていることが考えられます。
倒産が急増!前年同月比の伸び率が最大の54%
手元資金に余剰を感じる中小企業がある一方で、倒産も急増しています。
2023年8月の倒産件数は760件で、前年同月比の伸び率は新型コロナウィルスの感染拡大後で最大の54%となっています(東京商工リサーチ)。
ゼロゼロ融資、社会保険料の納付猶予など資金繰り支援の特例が切れたことで、重荷が一気に増した、という背景があります。
中小企業の22年度末の長期借入は157兆円。コロナ禍前の19年度末から25兆円増加しています。
これは中小企業全体の経常利益7年分に相当すると言われています。
新型コロナウィルスの流行は、中小企業の体力差を浮き彫りにしましたが、流行する以前より既に明暗は分かれていた、と私は感じています。
資金繰り、利益獲得に苦悩する会社の共通点
私が担当する事業再生の仕事でお会いする資金繰りに窮する会社、利益獲得に苦しむ会社の多くは、いずれも数字を経営に活かしていないという共通点があります。
月次決算は、会社経営にとって欠かせない業務です。
ところが、多くの業績不振の会社では、月次決算が遅い、月次の利益が正確でない(決算をしないと本当の利益がわからない)、問題点がどこにあるのかわからない、等々の問題を抱えています。
問題の真因に辿り着けなければ解決ができませんし、資金繰りに窮する段階に陥れば、打ち手も限られます。
問題の根底にある「財務アタマ」の差
この悪い状況を生み出した原因を追求していくと、財務を強く意識して会社を絶対につぶさず伸ばしていく思考力、いわゆる「財務アタマ」の差が見えてきます。
しかし、月次決算を経営に活かそうと思っても、一気に実現しません。
なぜなら、「会社の実態が知りたい」「問題点があれば見えるようにしたい」という経営者の強い思いによって、段階的にかつ組織的にレベルアップしていくものだからです。
ここで組織的にとあえて加えたのは、月次決算が経理部門だけの業務ではないことを強調したいためです。
数字の活用に問題を抱える会社で見られる、「会計に不慣れである」「専門家に任せたい」「現場が良くわからない」「今までのやり方を変えたくない」といった消極的な意見を克服できるかは、この思いの強弱によって、決まってくるのではないでしょうか。
管理会計の見直しが継続的な課題
つまり、管理会計は「改革すべき点がわかる」会計と言えます。
「わが社のあるべき管理会計」を探求し続けたからこそ身につけられるノウハウであると私は思います。
生存確率が高まるのは、当然の結果のように思います。
過去、中小企業庁が出したレポートに、中小企業の管理会計システムの要諦がまとめられていたので、その一部をご紹介します。
②自社に適合した管理会計の仕組みを構築することが求められる。
③自社に適合した管理会計の仕組みを構築するためには、高度な技術が要求されるわけではない。自社のビジネスモデルや実態を的確に把握し、正しい考え方に基づけば、シンプルで有効な仕組みを構築することが可能である。
ビジネスモデルの変革を求められる状況下では、管理会計の見直しはこれからも継続的な経営課題となるでしょう。
正確性(信頼できるか)、迅速性(情報が早いか)、有用性(経営判断に役立つか)、効率性(情報作成コストが過大でないか)の物差しでチェックして、改革すべき点のわかる管理会計へとメンテナンスして頂きたいと思います。
冒頭にありました現預金を多くもつ会社も油断なりません。
守り一辺倒の経営では、将来を担う有望な若手が採用できない可能性もあります。
数字を武器にして、攻めと守りのバランスの取れた経営を実践してください。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 川合 和人
- 1997年 南山大学卒。MBA。中堅・ベンチャー企業の業績管理制度構築や業務改善、経営計画策定、事業再構築等のコンサルティング業務に従事。幅広い分野で経営者、経理責任者の参謀役として活躍中。
- 川合 和人の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。