経理のデジタル化最前線~改正電帳法対応、その先へ~

会計

毎年恒例の与党税制改正大綱が、昨年12月10日に公表され(12月24日閣議決定)、話題となっていた電子取引の電子保存義務化について、2年間猶予されることとなりました

これまでの経緯

  • 令和3年税制改正により、電子帳簿保存法が抜本的に見直されました。
  • 改正の多くは要件緩和でしたが、2022年1月以降の電子取引については電子保存義務化を予定していたため、全事業者に影響が及びうる状況でした。(改正の詳細は割愛)
  • 電子保存義務化となると、事業者においては業務フローはもちろん、システム導入または改修が必要になるため、現場からは対応が到底間に合わないと強い懸念と困惑がありました。
  • そのような状況の中、昨年11月12日に国税庁からQ&Aが公表され、これにより事業者の懸念の一部が解消されることとなりました。
  • (Q&Aから引用)補4 一問一答【電子取引関係】問 42
    【補足説明】
    電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかとの問合せがあります。
    これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。
  • そして12月に入り、一部報道機関から「2年間猶予」とのリーク記事が報道され、結果的に冒頭の令和4年税制改正大綱の内容の着地に至りました。

今後目指すべき方向性

義務化がなくなったわけではなく、2年間の猶予期間が設けられたに過ぎませんので、2年以内のどこかで対応しなければならないことに変わりありません。

もともと、デジタル化・ペーパーレス化が進展する中で、経理の電子化による生産性向上等が改正の趣旨でした。

電子取引についても、「取引相手から請求書・領収書等がデジタルデータで送られ、それをデータのまま保存できることが納税者の利便になり、税務手続の電子化を進めるうえでも重要。」との背景があります。
財務省「令和3年度 税制改正の解説」p964

そのため、法令改正に最低限対応することで終わらせるだけでなく、これを機会と捉え、業務フローをデジタルを前提として見直し、大幅な効率化の実現まで考慮されることを推奨します

その上で、多くの会社にとって、会計システムのクラウド化(クラウド会計の活用)がひとつポイントとなることでしょう。

クラウド会計の特徴

各種ベンダーの製品紹介では、自動バックアップの実現、分散処理の実現など、様々なメリットが従来との比較で説明されています。

その中で私見ですが、最も重要な点は「記帳方法の多様化」であると考えます。
具体的には、下図のピンク部分がクラウド会計により多様化した部分になります。

デジタル化の進展により、記帳の元データが「デジタル」であるケースが増えてきています。

そうであるならば、「いかに入力するか」から「いかに流し込むか」に記帳のあり方自体がシフトするのは当然です。

データを常時流し込めるようにするためには、常時ネットワークに接続しておく必要があり、それを実現しているのがクラウド会計なのです。

画像起点による記帳

改正電子帳簿保存法のポイントとしては、相手先から電子データを受領した場合(電子取引)の電子保存は義務化、相手先から紙証憑を受領して自らスキャン等でデータ化して保存する場合(スキャナ保存)は要件緩和となります。

制度改正によりペーパーレス化が後押しされ、今後は各事業者において大量の画像データを保存する流れになることでしょう。

つまり記帳の元データが益々電子化される流れになるため、これらを起点に記帳を進めた方が効率化に繋がる会社は増えていくことでしょう。
(手入力による記帳後に、仕訳へ画像添付するだけでは制度対応止まりとなってしまいます。)

こうした流れを踏まえ、最近ではAI-OCR機能の注目度が非常に高くなっており、各種会計ソフトベンダーは自社製品の機能追加、または連携ツールの拡充を行っています。

これにより、画像データをクラウド会計等に放り込み、学習実績を蓄積することで、以降は記帳をほぼ自動化できるケースも増えてきています
(もちろん、電子帳簿保存法の要件を充足)

最後に

2年間猶予の影響は、事業者だけではありません。

昨年は各会計ソフトベンダーも電子帳簿保存法対応の機能追加に追われており、私見ですが、現時点の製品性能として、「ユーザーの制度対応の実現」のその先の「生産性向上の実現」まで十分ではなかったように感じていました。

今後、電子インボイスも入ってくることで、ますます業務プロセスの垣根が無くなっていきます。

これまでは別々の業務プロセスで、別々のシステムにより処理されていたものが、前後プロセスの連携や一体化により垣根が取り払われていくことでしょう。

具体的には、取引の発生・債権債務認識・決済・消込・これらの記帳が、一気通貫化されていきます。

そのため、先述の画像起点による記帳の話で言えば、画像を放り込んでから、いかに速く正確に取引を記録、債権債務を認識し、その後の工程のプロセスを処理できるか等、システムが業務に伴走している存在か、ユーザーにとってのUX(体験)がどれほど洗練されているかが、見極めのポイントになっていくことでしょう。

是非、制度対応のその先の実現の視点で、各社の動向を注視してみてください。

筆者紹介

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井悟史

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井 悟史
慶應義塾大学経済学部卒。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。
酒井悟史の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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