変動損益計算書が有効な理由~新型コロナは財務の力で乗り切ろう!

会計

新型コロナウイルスのまん延が日本の中堅中小企業に与える影響は計り知れません。

日本経済新聞では、以下のように報道しています。

2020年の企業の倒産件数は1万件(2019年:8,383件)を超え、
これに自主的な休廃業や解散の5万件(2019年:43,348件)を加えると
6万件もの企業がなくなる可能性があり、
一刻も早い雇用や資金面での公的支援や事業承継対策が必要である

現在は、国や地方公共団体等の公的機関の支援策も揃いつつありますので、中堅中小企業の皆様には利用できるものはなんでも利用して、この厳しい局面での生き残りに全精力を注いで頂きたいと思います。

▼【最新情報はこちら】国や地方公共団体等の公的機関の支援策

さて、このような緊急事態の中で、企業の生き残り策を検討する場合、通常の損益計算書ではなく変動損益計算書が有効です。

変動損益計算書が有効な理由

通常の損益計算書(営業利益まで)は、以下の構成となっています。

売上高 - 売上原価 = 売上総利益
売上総利益 - 販売費および一般管理費 = 営業利益

売上高から商品や製品の原価を控除して売上総利益を計算し、そこから販売活動や管理活動にかかった経費を控除して営業利益を計算します。

一方、変動損益計算書(営業利益まで)は、以下の構成となっています。

売上高 - 変動費 = 限界利益
限界利益 - 固定費 = 営業利益

変動損益計算書では、売上高から変動費(売上の増減に応じて増減する経費)を控除して限界利益を計算し、そこから固定費(売上に関係なくかかる経費)を控除して営業利益を計算します。

つまり、売上原価や販売費および一般管理費の内容を変動費(材料費や商品原価、運賃等)と固定費(人件費や賃借料等)に分類し、売上高からそれぞれを控除して利益を計算したものが変動損益計算書です。

この変動損益計算書を作成するメリットは2つあります。

メリット1:固定費が明確になる

まず、固定費が明確になります。

固定費は売上に関係なくかかる経費で、商品販売等による限界利益で回収する経費です。

固定費は資金流出につながるため、月にどれ位の固定費がかかっているのかを把握することは資金繰り上も重要で、このような緊急事態時には減価償却費を除いた固定費を把握します。

減価償却費は投資時に既に支出していますので固定費から控除することで、資金流出となる固定費が明確になるのです。(変動損益計算書を作成するメリット1)

メリット2:損益分岐点売上高が把握できる

もう一つは、損益分岐点売上高が把握できることです。

固定費を限界利益率(限界利益÷売上高)で割ったものが損益分岐点売上高であり、その売上高が獲得できれば固定費が回収できるという目安となります。

減価償却費を除く固定費を限界利益率で割れば、資金流出をしない売上高の水準が明確になるのです。(変動損益計算書を作成するメリット2)

未曽有の緊急事態を財務力で乗り切る

緊急事態により売上高が大きく減少している場合には、公的な支援制度をフルで活用した場合でもかかる固定費を把握します。

所在地によっていろいろな支援制度がありますが、人件費は雇用調整助成金、家賃等は家賃支援給付金、その他水道光熱費等の支援や休業協力金等の制度が利用できます。

これらの制度を活用してもかかってしまう固定費が、実質休業をした場合の資金流出額となります。

さて、緊急事態により売上高が大きく減少している場合には、この「制度を活用してもかかってしまう固定費」と「様々な対策をした場合に見込める営業利益」を比較します。

具体的手順としては、まず、自助努力により少しでも売上を増加させる対策を検討します。

つぎに、対策により獲得できるであろう売上高や限界利益を予想し、現状の固定費に、その対策のために追加となる固定費を加算、結果としてどれだけの営業利益が獲得できるのかを計算します。

損益分岐点売上高の考え方から、追加対策により増加する固定費に対してどれだけの売上を獲得できれば回収できるのか把握できます

更に、固定費に目標利益を加算して損益分岐点売上高を計算すれば、目標利益を達成するための売上高の水準も把握でき、その売上高の獲得が本当に可能なのか判断もしやすくなります。

コロナショックに打ち勝つためには

このように、様々な売上確保のための対策を考慮し、

・一番効果が高い対策はどれか?
・成功する確率が高い対策はどれか?
・この対策にはどれ位にリスクがあるのか?

利益シミュレーションをしながら検討し、実際の判断をしていくことが最善の意思決定の方法です

多くの中小企業がビジネスモデルの変革を迫られています。

今回のコロナウィルスのまん延のように何かをしないといけない、変えないといけないという事業環境の中、変動損益計算書を活用して様々な対策の有効性やリスクをあらかじめ把握しておき、実際の行動に移すという経営スタイルが有効ではないでしょうか。
 

管理会計導入

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役社長
中小企業診断士 池ヶ谷 穣次
1993年 静岡県立大学卒。MBA。中堅中小企業の経営管理制度・管理会計制度構築サポート、事業再生サポート、財務・事業デューデリジェンス業務、M&Aサポート、株式公開支援、月次決算支援業務等に従事。システムエンジニア時代に得たシステム思考を応用し、経営者・経理責任者の参謀役として活躍中。
池ヶ谷穣次の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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