中国ゼロコロナ政策、台湾有事への懸念
ホンダが国際的な部品サプライチェーンを再編し、中国を他地域と切り離すという報道がありました(産経新聞8月24日)。
切り離しというのは、中国国内での製造販売は継続するも、日本を含む他地域での製造に際しては、中国国内製造の部品を使わないというものです。
現在は、中国国内製造部品の依存度が高く、見直しには困難が予想されると報道されています。
ゼロコロナ政策や台湾有事への懸念があり、中国は中国、他地域は他地域、ということで事業を再編し、世界最大の自動車市場である中国の需要を取り込みつつ、中国で何かあっても他地域での事業は継続できるようにするようです。
中国事業の切り離し、ホンダへの影響は?
ホンダの2022年3月期の有価証券報告書によると、連結売上高約14.5兆円に対して中国を含むアジア地域の売上高は約3.4兆円となっています(中国単独でのデータは記載されていません)。
アジア地域の売上高が全体の売上高に占める割合は約23%です。
また、アジア地域の資産は約0.7兆円で、連結資産合計約24兆円に対して約3%となっています。
現在の連結自己資本比率は約45%ですが、アジア地域の資産約0.7兆円が失われた場合、連結自己資本比率は約43%になります。約2ポイント悪化です。
つまり、
- アジア地域の売上高が約23%を占めるので、中国事業が立ち行かないと利益が大幅に減少する
- 資産が没収されても、自己資本比率が2ポイント悪化する程度なので財務的には耐えられる
という状況にあります(財務安全性については自己資本以外の指標も分析する必要がありますが、セグメント情報が限られているため、自己資本比率のみを手掛かりに解説しています)。
このため、何かあっても財務的には耐えられますので、中国事業を継続することができます。
何かない場合の中国市場は魅力的です。
ホンダが検討を進められるのはなぜか?
台湾有事への懸念などから、中国事業の撤退を主張する論調がある中、ホンダは中国事業を「切り離し」という考え方で継続します。
ではなぜ、このような経営戦略の見直しができるのでしょうか?それは、強固な財政状態にあるといえます。
何かあって中国での資産が没収されても、財務的には耐えられますので、中国で事業継続することが可能です。これにより、何かあるまでは、世界最大の自動車市場から利益を得ることが可能です。
財務が弱い企業ではこうはいきません。
中国への投融資が全損した場合に、日本親会社が債務超過になるような状況では、中国事業を続けられない可能性があります。
中国事業を継続するなら、何があっても耐えられる強固な財務体質を構築することがポイントですね。
これからの中国経営戦略
ちなみに、中国国家統計局発表の鉱工業生産指数によると、足元の自動車市場は、
- 売上高は、7月単月が前年比+22.3%、1~7月累計で前年比+1.3%
- 台数は、7月単月が前年比+31.5%、1~7月累計で前年比+2.9%
で好調です。
累計ではほぼ前年並みですが、これは4~5月の上海などでのロックダウンの影響です。
なお、「台数の伸び>売上高の伸び」となっていますので、販売単価が下がっている可能性があります。
となると、利益率が下がりますので、原価低減圧力が強くなると思われます。
これまで以上にきめ細かな原価管理などがポイントになりそうです。
なお、自動車以外の7月の経済指標はあまりよくありません。
- 失業率は、全体では5.4%(6月は5.5%)と改善するも、16歳~24歳では19.9%(6月は19.3%)で過去最悪
- 消費は、7月は前年比+2.7%でプラス成長であるが、1~7月では▲0.2%でマイナス成長
- 不動産上位100社の1~7月の売上高は前年比▲47.3%で大幅なマイナス
- 地方財政を支える土地使用権売却額は、1~7月で前年比▲31.7%で大幅なマイナス
先ほどの鉱工業生産指数でも、国内大企業は単月+5.4%、累計+3.1%ですが、外資は単月1.9%、累計▲1.5%となっています。
業種別でも、プラスの業界とマイナスの業界ではっきりとした差が出ています。
ゼロコロナや台湾有事への対処、また、成熟して低成長が定着しつつある中国経済への対処など、中国経営戦略は見直しのタイミングに来ていると思われます。
アタックス海外サポート室では、中国マクロ経済情報の提供などを通じて、経営戦略の立案や見直しを支援しています。また、中国で何かあっても耐えられる強固な財務体質構築のお手伝いもしています。是非、ご活用いただければと思います(ご相談フォーム)。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 執行役員 海外サポート室 室長 諸戸 和晃
- ミサワホーム勤務を経てアタックス入社。株式公開、企業再生、M&A支援等のコンサルティング業務に従事。2011年より2年間北京赴任。赴任中は北京中央財経大学への語学留学、中国系会計事務所「中税咨询集团」(北京)で業務。帰国後、海外サポート室の室長として、中堅中小企業の海外進出に関する支援業務に注力している。
- 諸戸和晃の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。