筆者は、主に中小企業の再生に関するコンサルティングを行っています。
その経験から、中小企業が「再生フェーズ」に至ってしまう要因の多くは、過大な設備投資にあると思っています。
十分な投資回収の検討がなされずに、オーナー社長の鶴の一声で収益拡大や事業転換のための多額な設備投資を行ってしまう。
その結果、想定どおりの収益を上げられずに、投資資金の回収が滞ってしまうケースです。
設備投資を行うか否かは、非常に重要な経営判断事項です。設備投資の判断基準として、一般的に以下の3つの考え方があります。
設備投資の判断基準、3つの考え方
(1)回収期間法
設備投資金額をどれだけの期間のキャッシュ・フローで回収できるかを判断基準とする方法です。
回収期間法は計算が単純で、非常に分かりやすい方法ですが、以下のようなデメリットがあります。
- 設備投資金額を回収した後のキャッシュ・フローを考慮していません。
そのため、設備投資の効果が長期間継続する場合には、誤った判断をしてしまう可能性があります。 - 貨幣の時間価値(※)を無視しているため、誤った判断をしてしまう可能性があります。
※現在の一万円と、将来の一万円は価値が異なる、という考え方。現在の一万円は、運用利息が付くので、将来は一万円以上の価値となります。
(2)現在価値法
将来生み出されるキャッシュ・フローを、現在の貨幣価値(※)へ換算しなおし合計した金額が、設備投資金額を上回っているか否かを判断基準とする方法です。
※毎年10%の利回りで運用できると仮定すると、1年後の一万円は、(1+10%)で割った9,091円が現在の貨幣価値となります。
(逆に言うと、9,091円を10%の利回りで1年間運用すると一万円になります)
貨幣の時間価値も考慮して投資判断を行いますので、回収期間法に比べてより理論的には適正な判断基準です。
しかし、現在の貨幣価値を換算しなおす際の利回り(割引率といいます)を、どの程度に設定すれば良いかの判断が非常に難しく、中小企業で採用するにはかなりハードルが高いです。
(3)内部収益率法
設備投資によって将来生み出されるキャッシュ・フローの利回り(内部収益率)を計算し、内部収益率が設備投資に要求する利回りを超えているか否かを判断基準とする方法です。
内部収益率は、表計算ソフトに用意されている関数(エクセルであればIRR関数)を使えば簡単に算定できます。
しかしながら、設備投資に要求する利回りをどの程度に設定すれば良いかという非常に難しい問題が残ります。
中小企業では回収期間法がわかりやすい
筆者は、中小企業が設備投資の判断を行う際には、計算が単純で分かりやすい回収期間法が適していると考えています。
その際に、回収期間を何年とするかが重要なポイントとなります。
回収期間は、設備投資によって効果が得られる期間のほか、設備投資による獲得できる将来キャッシュ・フローの確実性などにも影響されます。
個別の設備投資ごとに検討すべき事項であり、一律のルールを決めることは出来ません。
筆者がクライアントから相談を受けた際には、回収期間を保守的に「耐用年数の半分」とすることをアドバイスしています。
将来キャッシュ・フローが下振れる可能性がありますし、設備投資の効果で生まれる回収後のキャッシュ・フローは予測が難しいからです。
中小企業にとって大型の設備投資は会社の命運を左右しますそれだけに、慎重に採算性を検討する必要があります。
どのような基準で判断する場合でも、いかに確実性の高い将来キャッシュ・フローの見積もりを行うかが最も注意すべき事項です。
そのためには、大型の設備投資を実施する場合には、しっかりとした事業計画を策定することをお勧めします。
これからの設備投資について採算性をしっかり踏まえた計画を立てたいという方、過去の設備投資の影響で事業に課題をお持ちの方は、お気軽にこちらからご相談ください。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 中小企業診断士 辻 裕之
- 銀行系システム会社、NRIデータサービス(現野村総合研究所)を経て、アタックスに参画。中堅中小企業を中心に、企業再生、M&Aサポート、計画経営推進、管理体制整備、経営顧問業務など幅広い業務にあたるオールラウンダーなプロジェクトマネージャーとして活躍中。
- 辻 裕之の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。