「移転価格」への戦略的対策が必要なワケ

税務

複数の国にまたがって活動する多国籍企業は、子会社や関連会社との取引を利用して、グループ全体で最大収益を上げることを命題としています。

材料や資材の調達から研究開発や製造拠点をどこに置いて生産するか、販売市場をどこに選定し、自社の製品をどう販売していくか、企業グループがおかれた環境に応じて子会社や関連会社と取引しています。

この企業グループ内の取引価格こそが「移転価格(Transfer Pricing)」と言われ、各国の税務当局が自分たちの国で法人税を取り損なわないように「移転価格税制」を制定し注目しているのです。

「移転価格税制」は、グループ内で行われる取引価格が、グループ外の第三者との取引価格(独立企業間価格)と異なる場合に、独立企業間価格で取引したとみなして課税する制度です。

独立企業間価格であることを説明するための書類の提出や備え置きが求められ、税務調査等で適宜対応できない場合は、「推定課税」が行われます。いわゆる「みなし」で課税が行われるのです。

企業グループにしてみれば、どこでどのような取引を行おうが、本来、自由のはずです。

しかし、各国の税務当局からしてみると、企業グループ内で恣意的に操作された取引価格によって本来、自国に落ちるべき利益が他国へ移転させられてしまうことは許し難いことになるわけです。

移転価格の設定次第で企業グループ内の利益配分が変わり、それぞれの所在国での納税額が変わります。一方の国で利益が増えれば、他方の国では利益が減ってしまうので、国家間の利益の取り合いは激しさを増すのです。

自由な経済取引があるべきという議論の前に国際ルールとして各国における「移転価格税制」が存在するのです。

最近の動きとして、OECD(経済協力開発機構)租税委員会では、国際的な租税回避行為を防止するため、現地の税務当局に多国籍企業の本社や第三国の利益情報を開示しようとしています。

このことは、親会社の事務負担やコストの増加だけでなく特に新興国においてますます移転価格への課税リスクが高まることを意味します。

他国の利益水準と自国の利益水準の比較が容易になるからです。 また、中堅・中小企業は、移転価格への対応を現地子会社へ任せきりにする傾向があるようにも感じます。

親会社は、子会社の国で問題が起こればその都度ごとに対応することが多く、統一された移転価格ポリシーが策定されていないため、時に国ごとにおける移転価格の根拠に不整合が生じます。

さらに、グローバル化の進展は、多国籍企業による取引をより複雑にするため、グループ企業間の適正な移転価格の設定が単純なものではなくなってきています。

クループ企業の情報を収集したうえで移転価格を分析し、各子会社の機能やリスク負担を検証するとともに、親子間での適切な利益配分を検討して適切な移転価格の算定方法や移転価格ポリシーを構築することが必要です。

移転価格ポリシーの導入や運営を親会社が戦略的に主導していくことが求められるのです。

アタックスでは、親会社を中心とした適切な移転価格ポリシーの設定についてご支援しております。こちらからお気軽にご相談いただければと思います。

筆者紹介

アタックス税理士法人 社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
伊藤彰夫の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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