近年の海外取引法人等に係る税務調査の実施状況は、国税庁の統計資料によると、平成24事務年度においては12,506件、平成25事務年度においては12,277件、とほぼ横ばいとなっています。
これは、平成23事務年度の15,247件と比べると大きく減少しているのですが、特筆すべきは、調査における非違(更正・決定等)割合が年々増加しているところにあります。
平成23事務年度が24.0%であるのに対して、平成25事務年度は27.5%となっています。
海外取引の経験が比較的豊富な大企業は、国際税務への対応がある程度出来ていると想定すると、この非違割合を押し上げているのは、中小・中堅企業であると推測できます。
急激なグローバル化によって中小・中堅企業も海外展開や海外取引を行うようになったものの国際税務への対応は遅れており、法人税調査の場面で指摘事項が多くなるという実態が見て取れます
移転価格調査についても、この10年ほどの間に大企業への課税が一巡し、いよいよ中小・中堅企業への課税を強化する動きが出てきています。
実際、東京や大阪、名古屋の国税局の国際情報課で対応していた移転価格調査も近年は、各地の主要な税務署に移転価格チームの人員を異動させて課税の強化を図っているようです。
中小・中堅企業の移転価格課税で注意を要することは、国際税務への対応を強化することはもちろんですが、企業の税務担当者と顧問税理士との間に移転価格に対する認識ギャップが存在する点です。
企業の申告業務を請け負う顧問税理士は、期中の質問対応等で移転価格課税のリスクを認識しない限り、会社から提出された数値情報が正しいという前提で税務申告書を作成することがほとんどです。
つまり、海外子会社(国外関連者)との取引において、取引価格が適正か否か、所得配分が移転価格課税上、問題ないものかどうかは会社の経営判断の結果であり、申告書の作成責任の範囲にないと考えています。
場合によっては、税理士自体が移転価格の課税リスクに精通していないということもあり得ます。
一方、企業の税務担当者のほうも、顧問税理士に見てもらっているのだから大きな問題はないはずだという思い込みや、海外子会社との取引価格の決定は営業部門の問題だという認識で、税務部門が把握すべき移転価格の課税リスクを認識していないケースも見受けられます。
このように、特に、中小・中堅企業においては、企業の税務担当者や顧問税理士のスタンスによって移転価格に対する認識ギャップが生まれやすい状況にあり、潜在的な課税リスクが高いと言えるのです。
また、これまで、移転価格課税の対象取引は、海外への所得移転の価格が大きくなる海外子会社との製品取引や原材料取引などの棚卸資産取引が大半を占めていましたが、近年は、海外子会社に対する役務提供取引や技術供与、商標の許諾等に係るロイヤルティといった無形固定資産取引も増えてきています。
移転価格による課税は、海外に所得を移転して日本での租税負担を軽くしようという租税回避の意図の有無に関わらず、結果として所得配分が不適切な場合に課税されます。
設立初期における海外子会社の負担を軽減しようという経営判断から、上記の役務提供取引や無形固定資産取引について適正な対価を取っていないケースも多く見受けられ、取引金額によっては大きな課税リスクがあると言えます。
こうしたリスクの軽減のためには、海外子会社との取引について、適切な移転価格ポリシーを確立し、ドキュメンテーションによってこれを裏付けることが求められます。
私どもアタックスグループでは、移転価格リスクの把握と評価に関する支援、移転価格ドキュメンテーションの作成と評価に関する支援を行っております。お気軽にご相談いただければと思います。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
- 1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
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