先日、タイ投資委員会(BOI)の主催で、タイに地域統括会社を設置した場合、税務面などで優遇を与えるという地域統括会社制度に関する説明会が、名古屋で開催されました。
タイには、これまでも、ROHと呼ばれる地域統括会社制度がありましたが、シンガポールや香港に比べて、条件面で劣るので、大企業を除くとそれほど利用されていなかったようです。
タイ政府としては、この状況を打開するため、新たにIHQと呼ばれる地域統括会社制度を制定し、企業の誘致を促進したいようです。
シンガポールや香港、さらにはマレーシアなども巻き込んで地域統括会社誘致競争に発展するかもしれません。
IHQの優遇措置の具体的な情報については、まだそれほどありませんが、BOIのホームページやセミナーで配布された資料から抜粋します。
1.主なIHQ認定条件(国税局の基準)
(1)タイ国外にある最低1社の関連会社に対し、管理サービスまたは技術面のサービス、支援サービス、もしくは財務管理を提供すること
(2)最低払込資本金1,000万バーツ(約3,500万円)
(3)タイ国内における受領者に対して支払う運営費用(家賃など)が1,500万バーツ
2.主な優遇政策
(1)個人所得税
・税率を15%に引き下げ(本来は最高税率で35%)
(2)法人所得税
・タイ国外にある関連会社からの収入
(サービスフィー、ロイヤルティー、配当金など)を免税。
・タイ国内にある関連会社からの収入
(サービスフィー、ロイヤルティー)に対する税率を10%へ引き下げ(本来は20%)
統計などを見ると、中堅中小企業が地域持株会社を設置する件数はあまり多くないようですが、この制度で、より身近になるのではないかと思います。
例えば、タイとインドネシアに生産子会社がある場合、タイ子会社で行われている管理部門を地域統括会社として切り出して、タイとインドネシアの生産子会社を傘下にぶら下げるなどが考えられます。
これなら、もともとタイ子会社で実施していた管理業務をそのままスライドさせるだけですので、イメージが湧きやすいと思います。
その上で、オフショア取引(※)を地域統括会社に集中させれば優遇を受けることができるようになります。
例えば、タイでの部品調達が最適であれば、タイでこの地域統括会社が一括調達して、タイとインドネシアの各生産子会社に物流手配するなどのオペレーションが考えられます。
地域統括会社には、税務面の優遇以外にも以下のようなメリットがあります。
・各子会社で重複する機能や部門があれば、これを統合することで無駄を排する
・ある国での調達が最適であれば、そこで集中購買することで調達コストを低減する
・各社からの配当などを低税率国に集め、税引き後のキャッシュを最大化する
将来のアジアビジネスを構想される際には、タイIHQなどの地域統括会社を絡めることも検討されることをお勧めします。
※オフショア取引:
いわゆる三国間貿易。貨物は当地を経由させずに書類や決済のみを当地で行う取引。
アタックスではタイ地域統括会社の設立の支援など、海外ビジネスのご支援をしています。詳しくはこちらをご覧ください。
筆者紹介
- 株式会社アタックス 海外サポート室 室長 諸戸 和晃
- 大手住宅会社勤務を経てアタックス入社。株式公開、企業再生、M&A支援等のコンサルティング業務に従事。2011年より2年間北京赴任。赴任中は北京中央財経大学への留学、中国系会計事務所「中税咨询集团」(北京)で業務。帰国後、海外サポート室の室長として、中堅中小企業の海外進出に関する支援業務に注力している。
- 諸戸和晃の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。