平成27年税制改正大綱において、「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の創設」としていわゆる「出国税」が導入されることになりました。「出国税」は、日本の富裕層の方が日本を出国して非居住者となる際に、保有する金融資産等の含み益に対して出国時に課税するというものです。
この制度の対象者は、1億円以上の未上場会社株式や外国株式も含めた有価証券等を持つ人で、国外転出をする日の前10年以内に、国内に5年超にわたり住所及び居所がある人が対象となります。
OECDモデル条約の国際的な課税ルールでは、株式等のキャピタルゲインについては、株式等を売却した人が居住している国に課税権があるとされており、日本の所得税も原則、日本の非居住者が売却した株式等のキャピタルゲインは課税しません。
例えば、含み益のある未上場会社株式のオーナーが国外へ移住し、移住先国で株式を売却すると、その住んでいる国でキャピタルゲイン課税が行われるのです。
もうお分かりだと思いますが、大きな含み益のある株式を保有したまま、香港、スイスといったキャピタルゲインが非課税の国へ移住して売却する場合、日本でも移住先の国でも課税が行われず、理屈上、税金負担なしに資金化できるわけです。
結果、課税の不公平感をなくすために、今回の「出国税」の導入となったわけですが、日本以外の国では、すでにアメリカ、カナダ、フランス、オーストラリアなどで税負担の軽減を目的とした出国者への対応として、同様の制度が講じられています。
イメージそういった意味においては、「出国税」は徴税権の維持という世界潮流といえます。
アメリカでは、国籍離脱者や永住権放棄者に対して純資産が200万ドル以上の場合に、資産一般を対象として課税しているようです。
制度的には、国外転出後5年を経過する日までに帰国した場合に課税された税金を取り戻すことができる更正の請求手続や、一時的な出国にすぎない人のための救済方法として納税猶予制度も設定し、税負担の軽減を目的としない人のための対応策も講じられています。
しかし、未実現の含み益を実現したとみなして課税する「出国税」は、抑止力的な効果を狙っている感がぬぐえず、担税力という面で実効性について問題がありそうです。現実的には自己資金のほか銀行借入等による納税が想定されますが、今後の制度適用の場面が注目されます。
今回の「出国税」の導入によって、上場株式などで巨額に資産運用している投資家や大きな含み益のある未上場会社株式のオーナーなど、海外移住によるキャピタルゲイン課税の回避は事実上、難しくなります。
この制度は、平成27年7月1日以降の国外転出から適用されますので、今後、海外永住など10年以内に帰国を予定しない国外転出をされる方は、実務的に納税猶予制度の適用など事前の検討が必要になります。
私どもアタックスグループでは、自社株等を中心とした資産承継対策や国外事業展開における進出等を支援しております。こちらからお気軽にご相談いただければと思います。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
- 1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
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