平成26年4月より消費税の税率が5%から8%に、平成27年10月より8%から10%に引き上げられる改正法が8月に公布されました。消費税率5%の引き上げは12.5兆円の税収入が見込まれ、その使途が社会保障に限られるとしても、慢性的な国家財政の税収不足のなかでは大変影響の大きなものといえます。
税率引き上げ自体は1年以上先の話であり、また改正法には景気状況によっては「施行の停止条項」が入っており、本当に施行されるかどうかわからないとして、今はまだ静観している方も多いかと思います。しかし消費税率引上げには企業経営においては2つの大きな課題があります。
1つ目は、課税の転嫁が確実に行うことができるかということです。平成9年に3%から5%に税率が引き上げられました。当時通商産業省が調査した転嫁の状況は、製造業・卸売業ではほぼ転嫁ができましたが、小売業・サービス業では15%~40%の企業で転嫁ができなかったとされています。
特に小規模な企業ほどその傾向が強くなっていました。現在小売の価格表示は総額表示が取られており、実際に価格に税額を乗せにくくなっておりますます転嫁がしにくい状況といえます。消費税が10%に引き上げられてもその税額が転嫁できない場合、実質4.55%の値引きで販売することとなり、原価が変わるわけではありませんので、その値引き分は利益に直撃します。
例えば小売業の場合、黒字企業の平均的な営業利益率は1.6%(TKC指標より)なので、実質4.55%の値引き販売は完全に赤字になってしまいます。したがって、自社の予測される損益を出し、どのような対策が可能か検討し、販売価格の再設定や商品内容の見直し、新商品開発等を今から考えておく必要があります。
2つ目は、駆け込み需要とその反動が今回も予想されることです。特に自動車や住宅といった高額なものはその影響が大きなものとなります。政府も自動車取得税の廃止や住宅ローン控除の拡充などで駆け込み需要等への対応が検討されているようですが、その効果は未知数です。
駆け込み需要の後の反動減となると、多くの在庫を抱え込むことも想定され、体力のない企業は耐え切れず倒産となることも十分有り得ます。したがって、商品の売れ行きと在庫のバランスを常にチェックし、必要に応じた生産量の調整、売り切るための積極的な販売価格設定等を事前に検討しておくことが重要です。
これら2つの課題は、早めに対応策を準備しておくことが重要でありご検討いただきたく思います。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 愛知 吉隆
- 1962年生まれ。中堅中小企業から上場企業に至るまで、約800社の税務顧問先の業務執行責任者として、税務対応のみならず、事業承継や後継者支援、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。
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