移転価格に係る文書化規定の整備(平成28年度税制改正)

移転価格税制 税務

昨年10月、経済協力開発機構(OECD)から多国籍企業の課税逃れを防止する国際課税ルール(BEPSプロジェクト)の最終報告が公表され、平成28年度税制改正大綱において、我が国における移転価格税制に係る文書化の見直しが行われました。

今回は、この平成28年度税制改正における移転価格の文書化規定の整備について概要を見ていきたいと思います。

BEPSプロジェクト自体は、国際課税ルールの策定のための取組みであり、多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避によって税負担を軽減する「税源浸食と利益移転」(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)に対処しようとするものです。

米国のスターバックスやAmazonなど、多国籍企業の国際タックスプランニングにおける過度の節税が各国の税源を侵食したとして議論を呼んだところは記憶に新しいのではないでしょうか。

当該プロジェクトによって移転価格の問題も含めて多国籍企業のBEPSが防止され、各国の税源が適正かつ公平な形で確保されるとともに、納税者間の公正な競争条件が達成されることを期待されています。

平成28年度税制改正大綱では、多国籍企業グループについて、新たに「マスターファイル」と「国別報告書(CBCレポート)」を電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)によって所轄税務署長に提出しなければなりません。

ただし、直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループについては、これらの書類の提出義務は免除されます。

そういった意味ではグローバルに展開する大手企業グループについて限定された課税ルールだと捉えられるかも知れませんが、安心してはなりません。

上記に該当しない企業グループについても、国外関連者と一定金額以上の取引がある企業については、「ローカルファイル」なるものを作成・保存しなければならないからです。

この「ローカルファイル」は、移転価格を算定するための文書で、関連取引の概要や取引金額、他社との比較分析、適切な移転価格算定方法の選定など、ときには専門家の力を借りて作成する内容のものとなり決して簡単ではありません。

今回の改正では、税務申告書の提出期限までに作成・保存が求められ(同時文書化)、申告期限内の文書作成は、対象企業にとっては大きな事務負担となることが想定されます。

また、税務当局から「ローカルファイル」の提出を求められた際に、45日以内にファイルの提出ができないと推定課税・同業者調査が行われるという点も精神的負担です。

さらに、移転価格の問題は、我が国だけの問題ではなく海外子会社等の所在地国での問題でもあり、それぞれの国における移転価格法制度との調整も忘れてはなりません。

今後は、管理的側面からも親会社主導による取引ごとの移転価格ポリシーの策定が重要となり、国外関連者とまとまった取引がある企業やこれまで移転価格の対応等を行ってこなかった企業は、早急な対応が必要になってくるものと思われます。

「マスターファイル」と「国別報告書(CBCレポート)」は平成28年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度から、「ローカルファイル」は平成29年4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。

私どもアタックスグループでは、移転価格リスクの把握と評価に関する支援、移転価格ドキュメンテーションの作成と評価に関する支援を行っております。こちらからお気軽にご相談いただければと思います。

筆者紹介

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アタックス税理士法人 社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
伊藤彰夫の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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