前回、前々回に続き、「配偶者居住権」について見ていきたいと思います。
●「配偶者居住権」の創設~40年ぶり民法大改正の要点解説
●「配偶者居住権」の取扱い国税庁公表~相続税対策に必要な視点
「配偶者居住権」とは、亡くなった方が所有していた自宅建物について、その配偶者に終身または一定期間、この自宅の使用が認められるというものです。配偶者は遺産分割や遺言などでこの権利を取得することができます。
この「配偶者居住権」については、次の税務上の取り扱いの明確化が待たれていました。
今回はこのテーマについて解説します。
「配偶者居住権」を取得した配偶者が亡くなった場合に課税されるか
順番は前後しますが、まず、③の「配偶者居住権」を取得した配偶者が亡くなった場合に課税されるか、について解説します。
前回のコラムでお知らせしたとおり、配偶者が死亡した場合は課税されません。
令和元年7月2日付「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」によって、次の取り扱いが明確になりました。
・配偶者と「実際の自宅」を取得した者との合意などで「配偶者居住権」が消滅した場合、「実際の自宅」を取得した者に「配偶者居住権」について贈与税課税。
・配偶者の死亡などで「配偶者居住権」が消滅した場合には課税なし。
この取扱いを活用した相続税の圧縮策が考えられます。
その内容は前回のコラムをご確認ください。
相続税が大幅に圧縮される「小規模宅地等の特例」が適用されるか
次に、①の相続税が大幅に圧縮される「小規模宅地等の特例」が適用されるか、という点について解説します。
結論から言えば、小規模宅地特例の適用対象になります。
財務省「令和元年度税制改正の解説」では以下の通りです。
「配偶者居住権に付随するその目的となっている建物の敷地を利用する権利(敷地利用権)については、土地の上に存する権利に該当するので、小規模宅地特例の対象となります。」
自宅の土地だけではなく、配偶者が取得することになる「敷地利用権」についても対象になることが明らかにされています。
なお、「小規模宅地等の特例」とは、例えば、亡くなった方の自宅の土地について要件を満たす場合には80%評価が減額、つまり20%で評価してよいというもので、相続税の圧縮効果の高い特例です。
将来、自宅を売却した場合の税金の計算方法
最後に、②の自宅を売却した場合の税金の計算について解説します。
自宅を売却した場合は、「配偶者居住権」にも譲渡所得が課税されます。
令和2年度税制改正で以下の「配偶者居住権」の取得費の計算方法が明確にされました。
・合意解除や放棄により配偶者居住権が消滅し、配偶者が対価を得た場合に、譲渡所得として課税される際の取得費の計算方法
・相続により取得した居住建物等を、配偶者居住権が消滅する前に相続人が譲渡した場合に、譲渡所得として課税される取得費の計算方法
この取得費の具体的な計算式は次の通りとなります。
-設定から消滅等までの期間に係る減価の額
(※1)
建物については取得の日からその設定の日または譲渡の日まで
の期間に係る減価の額を控除した金額
(※2)
設定時における配偶者居住権等の価額に相当する金額
÷設定時における居住建物等の価額に相当する金額
このように「配偶者居住権」の税務上の取り扱いについては徐々に明らかにされてきており、上記の他にも令和2年2月12日付「相続税法基本通達の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」で、「配偶者居住権」の評価についての取り扱いが明確にされています。
とは言え、借家権類似の建物についての権利とされている「配偶者居住権」の売却について、土地建物と同様に分離課税で税金が課税されるのかなど、まだ明確になっていないこともありますので、引き続き今後の確認も必要です。
「配偶者居住権」は令和2年4月1日以後の相続から適用されます。
この制度は、相続税の圧縮策としての活用も期待できます。
しかし、前回のコラムにも書いたとおり、そもそも相続税の圧縮という視点だけで相続対策を検討すべきではない、ということをぜひご理解いただきたいと思います。
従って、この「配偶者居住権」の活用に当たっても専門家にご相談されることをお勧めします。
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筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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