平成31(2019)年度の与党税制改正大綱以降、表現を変えながらも「相続税・贈与税のあり方を見直す」こととされてきました。
しかしながら、令和4(2022)年度の与党税制改正大綱でも、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」とされたものの、改正自体は見送られました。
この見直しの具体的内容が「相続税と贈与税の一体化」です。
相続税と贈与税の関係
そもそも、相続税と贈与税の関係ですが、贈与税は相続税の補完税と言われています。
これは何故か、といいますと、生前に贈与で財産を移動することで安易に相続税をゼロまたは軽減することができないよう、生前贈与に対して贈与税を課しているから、です。
この贈与税ですが、課税方法が2つあります。
暦年課税制度と相続時精算課税制度です。
暦年課税制度のポイント
- 1月1日から12月31日までの1年間の贈与の合計額から基礎控除額110万円を差し引き、その残額に対して累進税率(10%~55%)が適用して贈与税を計算します。
- 贈与者に相続が発生した際、その相続で財産を取得する場合は、相続開始前3年以内の贈与についても相続税の対象となります。
相続時精算課税制度のポイント
- 60歳以上の父母、祖父母から18歳(2022年3月までは20歳) 以上の子、孫への贈与について選択により適用することができます。
- 1月1日から12月31日までの1年間の贈与の合計額から特別控除額を差し引き、一律20%の税率を適用して贈与税を計算します。
- この特別控除額は2,500万円を限度とし、前年以前に既に控除している場合は、その残額が限度額となります。
- この制度を選択した場合、その贈与者からの贈与については暦年課税制度を適用することはできなくなります。
- 贈与者に相続が発生した場合、この制度で生前に贈与を受けた財産はすべて相続税の対象となります。
なぜ生前贈与が相続税の対策になるのか?
それぞれの課税制度の特徴を捉え、生前贈与は相続税の対策として使われています。
暦年課税制度の効果
①基礎控除額110万円の活用 | 贈与税がかからない範囲で、複数年に分け贈与し、財産の圧縮を図る。 |
②税率差の活用 | 相続税の税率(10%~55%)よりも低くなる税率の範囲で、複数年に分け贈与し、財産の圧縮を図る。 |
③孫への贈与 | 通常、子は相続で財産を取得するため、相続開始前3年以内の贈与についても相続税の対象とされる。 そのため、相続で財産を取得しないであろう孫に対して贈与し、財産の圧縮を図る。 |
相続時精算課税制度の効果
①評価額の固定化 | 結果として相続税をかけ直すが、贈与時の評価が適用されるため、評価が低い時に贈与し、評価額の圧縮を図る。 (贈与後に実際の評価が下がる場合には逆効果となることに留意) |
「相続税と贈与税の一体化」として考えられる方向性
相続時精算課税制度については、すべて相続税をかけ直すため「相続税と贈与税の一体化」がすでに行われていることになります。
したがって、今後「一体化」は暦年課税制度について検討されることになると思われます。
そうしますと、「一体化」の方法としては次のようなことが考えられます。
- 相続税をかけ直す相続開始前の贈与について、3年ではなく、もっと長期間にする。
- 暦年課税制度を無くし、相続時精算課税制度のみとする。
2つのケースの影響とは?
「1.相続税をかけ直す相続開始前の贈与について、3年ではなく、もっと長期間にする」場合には、相続税をかけ直す贈与が増えることになりますので、暦年課税制度の「①基礎控除額110万円の活用」「②税率差」の対策効果はある程度、薄れることになると思います。
「2.暦年課税制度を無くし、相続時精算課税制度のみとする」場合には、すべて相続税をかけ直すことになりますので、暦年課税制度の「①基礎控除額110万円の活用」「②税率差」「③孫への贈与」のいずれについても対策効果は無くなることになると思います。
また、令和4年度の税制改正大綱では「贈与税の非課税措置の見直し」についても触れられていますので「①基礎控除額110万円の活用」自体、対策効果が無くなるかもしれません。
相続税対策にも大きな影響を与える税制改正になりますので、今後の動向をしっかりと見ていきましょう。
筆者紹介
- アタックス税理士法人代表社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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