今回は、最近ご相談のあった事例をご紹介します。
財産を孫に渡したい「遺贈」のメリットとは?
ある創業者の方が相続税対策の一環として、自分に相続が発生した際、財産の一部を孫に渡すことを考えていました。
そのためには、孫を自分の養子にするという方法もありますが、息子夫婦への配慮からこの養子作戦は採用せず、遺言書を作成して孫に財産を渡すことにしました。
相続人(このケースでは配偶者と息子)ではない者に遺言で財産を渡すことになり、これを「遺贈」と言います。
この場合、孫も相続税を納付することになりますが、孫は相続人ではないため相続税が2割増しになってしまいます。
とは言え、自社株の評価が高くこの創業者の相続税は最高税率55%が適用されます。また、創業者から財産を相続する息子に万が一のことがあるとその時にも55%の相続税がかかってしまいます。
相続税を2回負担するよりも、「代飛ばし」をして孫に財産を渡した方が一族として納付する相続税は低くなる、ということです。
遺贈で渡したいのは借金付きの不動産
孫に渡すのは、相続税対策の一環として取得した賃貸不動産です。
取得時に銀行から資金を借り入れたので借金があります。
安定した収入が見込めるため、借金付きでも孫に渡したい、という意向です。
賃貸不動産を借金付きで相続人ではない者に遺言で渡す、ということになり、これを「負担付き遺贈」と言います。
似たような言葉に「負担付き贈与」があります。
「負担付き贈与」とは先の例で見ますと、借金付き賃貸不動産を生前贈与で渡す、というものです。
この「負担付き贈与」の場合の税務の取り扱いも注意が必要です。
「負担付き贈与」の場合
例えば、自己資金300と借金700で取得した賃貸不動産1,000を借金付きで贈与したとします。その際の賃貸不動産の相続税評価額を700とします。
通常の贈与税の考え方では、相続税評価額700▲借金700=0となり、贈与税は発生しないことになります。
ただし、不動産を「負担付き贈与」する場合には、時価1,000▲借金700=300と計算することになり、300に対して贈与税が発生することになります。(下図①)
この「負担付き贈与」の税務の取り扱いは一般的なものとしてご存知の方も多いと思います。
「負担付き遺贈」の場合
では、「負担付き遺贈」の場合の税務の取り扱いはどうなるのでしょうか。
先の例と同じく、自己資金300と借金700で賃貸不動産1,000を取得したとします。相続発生時には、返済や建物の減価償却が進み、借金600、賃貸不動産の簿価500になったとしましょう。
相続発生時の時価と相続税評価額をそれぞれ1,000と700としますと、次のような取り扱いとなります。
まず、相続税を計算する際は、相続税評価額700▲借金600=100となり、「負担付き贈与」のように、時価1,000▲借金600=400という計算にはなりません。(下図②)
注意すべきは、亡くなられた方に譲渡があったものとして、準確定申告(※)で申告をしなければならない、という点です。
※準確定申告:納税者が死亡した場合、死亡した人の所得金額及び税額を相続人等が計算し申告、納税を行うこと。
この準確定申告では、簿価500の不動産を借金の額である600で売却したものとして取り扱います。その結果、借金600▲簿価500=100に対して、譲渡税がかかることになります。(下図③)
「負担付き贈与」と違い、この「負担付き遺贈」の取り扱いはプロである税理士の世界でもあまり知られていないようです。
今回見てきたように、
「不動産を負担付き贈与する場合には時価で評価」
「負担付き遺贈の場合には譲渡税が発生」
など、普通の感覚とは異なる税務上の取り扱いは多々あります。
税金に関する対策を検討される際には、ぜひご留意ください。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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