2021年10月5日の日経新聞に『首相、金融所得課税の見直し検討』という記事が掲載されました。
内容は
金融所得に対する一律20%の税率を引き上げて税収を増やし、中間層や低所得者に配分することなどを検討する
というもの。
その後、10月7日に『金融所得の税率上げ議論政府、一律案や累進案を来年度税制で検討』という記事が掲載されたものの、10月12日には『衆院選前「市場の反発」懸念 首相、金融所得課税強化優先せず』となり、現状では10月16日日経電子版『首相、在任中の金融所得課税の強化「あり得る」』というところで落ち着いているようです。
そもそも今回の「金融所得課税の見直し」とはどういうものなのでしょうか。
金融所得課税の見直しとは?
給与所得や事業所得は金額に応じて税率が上がっていく累進税率(所得税5%~45%、住民税10%)が適用され、最高税率は55%(所得税45%、住民税10%)です。
これに対して、株式の譲渡益、利子や上場株式の配当など、金融所得に対する税金は一律で20%(所得税15%、住民税5%)となっています。
この金融所得は富裕層ほどその割合が高くなる傾向があり、結果として富裕層の税率が低くなっていることが問題、ということで「金融所得課税の見直し」が検討されることになりました。
この見直しの効果として、
- 仮に税率を一律5%引き上げた場合は数千億円の税収増になる
- 50万円以上の金融所得の税率を30%に引き上げれば約3000億円の税収増になる
との見方があるようです。
自社株を売却する場合の3つのケーススタディ
では、この「金融所得課税の見直し」による税率引き上げが実施された場合、オーナー社長にはどのような影響があるのでしょうか。
「自社株の売却」を想定して検討してみましょう。
ケース①:役員報酬の代わりに自社株を売却している場合
役員報酬は給与所得として累進税率が適用、所得金額1,800万円で税率50%となるため半分が税金で持っていかれる、というイメージです。
この累進税率を回避するために役員報酬ではなく、自社株を持株会社に売却して生活資金を確保している方もおられるようです。
この場合、自社株の譲渡所得は金融所得のため、「金融所得課税の見直し」によって手取り額が減り、売却する株式数を増やす必要がでてきますので、株式シェアに影響することが想定されます。
ケース②:相続税の納税資金対策として持株会社を活用する場合
持株会社を設立、その持株会社に自社株を売却して、将来発生する相続税の納税資金を今のうちに確保しておく、ということを検討されている方もおられると思います。
この場合も、「金融所得課税の見直し」によって手取り額が減り、売却する株式数を増やすことになりますので、後継者の株式シェアや財産の分け方への影響が想定されます。
ケース③:相続税の納税資金対策として金庫株を活用する場合
自社株をその会社自身に売却する、いわゆる金庫株をした場合には、株式の譲渡ではなく、「配当とみなす」ことで累進税率が適用され、結果として半分以上が税金で持っていかれる、ということになります。
ただし、相続で取得した自社株について金庫株をした場合には、「配当とみなさない」という特例があります。つまり、株式の譲渡となるということです。
そのため、この特例を活用して相続税の納税資金を確保する、ということを検討されている方もおられると思います。
この場合、ケース②同様、「金融所得課税の見直し」によって手取り額が減り、金庫株をする株式数を増やすことになりますので、後継者の株式シェアや財産の分け方への影響が想定されます。
最後に
このように「金融所得課税の見直し」はオーナー家にとっての影響も考えられます。
今後の税制改正の動向にも注意しながら、見直しが実施された場合には、その影響を把握した上で、忘れずに対策の見直しを行いましょう。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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