平成31年度税制改正法が3月29日付けで公布されました。
平成31年3月末が適用期限であった中小企業経営強化税制(※)については、
令和3年(2021年)3月31日まで延長されました。
中小企業にとっては、節税メリットの高い税制が延長されることとなり、引き続き積極的な投資が期待されます。
(※)中小企業経営強化税制とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた「経営力向上計画」に基づき一定の設備を新規取得して指定事業の用に供した場合、即時償却又は税額控除を選択適用できる制度です。
「経営力向上計画」の現況
この税制を活用した会社も多いと思います。
平成31年2月28日現在で既に82,319件の「経営力向上計画」が認定されています。
認定された業種の内訳を上位順にみると、
製造業が35,409件、
建設業が17,269件、
卸・小売業が6,895件、
医療、福祉業が4,488件、
となっています。
「経営力向上計画」とは、事業分野ごとに認識されている課題を、あらかじめ定められた事業分野別指針に則って解決し、「労働生産性向上」などの経営目標を達成しようというものです。
例えば、製造業では、
・外国との労働コスト格差縮小
・円高の是正
・人手不足を踏まえた生産体制の再構築
といった課題が挙げられています。
これらの課題に対して指針では、IoTを活用した、次のような実施事項(一部抜粋)を定めています。
(1)多能工化、及び、機械の多台持ちの推進
(2)製品の設計、開発、製造及び販売の各工程を通じた費用の管理
(3)暗黙知の形式知化
(4)営業活動から得られた顧客の要望等の製品企画、設計、開発等への反映
(5)ロボットやITの導入
「経営力向上計画」の本来の目的とは
筆者は、中小企業経営強化税制の適用を受けるために、「経営力向上計画」の策定を数多く支援してきました。
その経験から感じることは、多くの中小企業では、節税メリットを受けるためだけに、「経営力向上計画」を策定しているのでは、ということです。
この税制のそもそもの趣旨は、文字通り、経営力を向上させることにあります。
従って、計画策定後の実行がとても重要なはずですが、それらがおざなりになっているケースが散見されます。
4月1日から施行された働き方改革関連法の遵守も求められており、今や労働生産性の向上は中小企業にとっては喫緊の課題です。
「経営力向上計画」を策定するための事業分野別指針は、業種ごとに現状認識や課題を踏まえた解決方法が示されています。
労働生産性向上のための取り組みが遅れがちな中小企業にとっては、非常に参考になる内容です。
最近では、学習塾業と職業紹介事業・労働者派遣事業に係る事業分野別指針が公表されました。
両業種に共通する実施事項として、
・人材の確保・育成のための評価体制構築
・資格取得の支援等によるキャリアアップの実施
・ICT導入・活用により業務標準化による効率化
等が挙げられています。
さらに、「経営力向上計画」に基づく労働生産性の向上は、所得拡大促進税制(前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度)の上乗せ措置の適用要件の一つにもなっています。
設備投資の節税メリットを受けるためだけの「経営力向上計画」ではなく、労働生産性を向上させることを目的に、いまいちど事業分野別指針をヒントに「経営力向上計画」の策定・取り組みを検討されてはいかがでしょうか?
筆者紹介
- アタックス税理士法人 社員 税理士・中小企業診断士 鵜飼 潤
- 現在、上場企業から中小企業まで幅広い顧客層のマネージャーを務める。 また、某大手銀行に出向し、銀行の顧客に対し、主に自社株承継対策を支援していた。 相続対策や資本政策等の業務にも精通し、顧客の多岐に渡る問題を解決しているほか、中小企業の財務分析も数多く手がけ、顧客の本質的な課題を抽出し、きめ細かな対応で絶大な信頼を受けている。
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