ミニマムタックスがはじまります!~高所得者への課税強化

税務

令和5年度税制改正において、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」が盛り込まれ、令和7年分以後の所得税について適用されることになりました。

「所得金額が1億円を超えるような高所得者層では、給与所得などに適用される累進税率よりも低い税率が適用される譲渡や配当などの金融所得等の占める割合が高いのが現状。その結果、所得税負担率が低下する」という、いわゆる「一億円の壁」問題に対する措置として、具体的には次で計算した額を所得税として追加課税するというものです。

「一億円の壁」措置の内容と例

追加される所得税額=①-②

①(その年分の基準所得金額※-3億3,000万円)×22.5%
※配当などで申告不要としたものも含みます。
②その年分の基準所得税額

金額をイメージすることで影響について確認しましょう。

ケース1

給与所得1億円、M&Aによる自社株の譲渡所得10億円

追加される所得税額=①-②<0
⇒追加される所得税額はなし

①(給与所得1億円+譲渡所得10億円-3億3,000万円)×22.5%=1億7,325万円
②基準所得税額=イ)+ロ)=1億9,020万円

イ) 給与所得1億円×所得税率45%-4,796,000円=4,020万円
ロ) 譲渡所得10億円×所得税率15%=1億5,000万円

ケース2

給与所得1,000万円、M&Aによる自社株の譲渡所得10億円

追加される所得税額=①-②=124万円

①(給与所得1,000万円+譲渡所得10億円-3億3,000万円)×22.5%=1億5,300万円
②基準所得税額=イ)+ロ)=1億5,176万円

イ) 給与所得1,000万円×所得税率33%-1,536,000円=176万円
ロ) 譲渡所得10億円×所得税率15%=1億5,000万円

ケース3

給与所得1億円、M&Aによる自社株の譲渡所得30億円

追加される所得税額=①-②=1億3,305万円

①(給与所得1億円+譲渡所得30億円-3億3,000万円)×22.5%=6億2,325万円
②基準所得税額=イ)+ロ)=4億9,020万円

イ) 給与所得1億円×所得税率45%-4,796,000円=4,020万円
ロ) 譲渡所得30億円×所得税率15%=4億5,000万円

ケース4

給与所得1,000万円、M&Aによる自社株の譲渡所得30億円

追加される所得税額=①-②=1億5,124万円

①(給与所得1,000万円+譲渡所得30億円-3億3,000万円)×22.5%=6億300万円
②基準所得税額=イ)+ロ)=4億5,176万円

イ) 給与所得1,000万円×所得税率33%-1,536,000円=176万円
ロ) 譲渡所得30億円×所得税率15%=4億5,000万円

「一億円の壁」措置における影響と留意点

以上から次のことが言えます。

■給与所得など累進税率が適用される所得の割合が高いほど影響を受けない
→【ケース1】と【ケース2】との比較、【ケース3】と【ケース4】との比較

■低い税率が適用される譲渡や配当などの金融所得等の金額が高いほど影響を受ける
→【ケース1】と【ケース3】との比較、【ケース2】と【ケース4】との比較

この改正が適用される令和7年以降、M&Aや相続税を納付するための金庫株特例(相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例)を検討される場合には、このミニマムタックスについて注意が必要です。

なお、復興税(令和19年まで所得税額の2.1%)も追加されることになります。

ミニマムタックスに対する住民税の取り扱いは未定のようです。

また、譲渡所得について「収入すべき時期」は、原則「引渡しがあった日」であり、納税者の選択により「契約の効力発生の日」も認められていますが、課税を免れるために令和6年の取引に仮装したり、税負担を減らすために年度を分けたりするなど、「収入すべき時期」について実態に合わないような調整は税務上問題となりますので、ご留意ください。

筆者紹介

アタックスグループ 代表パートナー
アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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