岸田総理は、衆議院議員選挙を10月19日公示、31日投開票の方針を示しました。
それに伴い各政党は公約(マニフェスト)として、多くの政策を公表していますが、その中で消費税の減税(廃止、中止含む)を掲げているところが多くあります。
消費税は広く生活にかかわる税なので、国民にとって耳あたりのよい政策であるといえます。
しかしその方向性は正しいものでしょうか。
そこで今回は消費税のあり方について考えてみたいと思います。
消費税導入と税収の推移
消費税の導入の目的は、昭和63年税制調査会の答申によると、本格的な少子・高齢化社会の到来を前提にした上で、次を掲げました。
(1) 勤労世代に偏らずより多くの人々が社会を支えていけるような税体系を構築する
→所得課税偏重からの脱却
(2) 社会保障をはじめとする公的サービスの費用を賄うため安定的な歳入構造を確保する
→安定的な歳入確保
その結果は、「一般会計の税収推移」(財務省)に表れています。
(注)令和元年度以前は決算額、令和2年度は補正後予算額、令和3年度は予算額。
(出典)財務省HP「一般会計の税収推移」
このグラフによれば、税収は、消費税制施行初年度の平成元年は所得税(21.4兆円)が最も多く、次いで法人税(19兆円)で、消費税は3.3兆円でした。
いわゆるバブル経済の真っ直中で所得税と法人税で税収の73.5%を占めていました。
その後バブル経済の崩壊により、所得税、法人税ともに税収は下降となり、平成16年度から法人業績の回復により法人税は上昇傾向となったものの、平成20年のリーマンショックの影響を受け、平成21年度には法人税(6.4兆円)が落ち込み、初めて消費税(9.8兆円)に2位の座を明け渡すことになりました。
それ以降は、法人税が消費税を上回ることはなく、令和2年度についに消費税(19.3兆円)が所得税(18.5兆円)を上回り、税収のトップとなりました。
消費税のように消費(付加価値)への課税は、景気等にほとんど左右されず税収が確保(1%あたり2兆円)できるので、上記の(1) 所得課税偏重からの脱却、(2) 安定的な歳入確保、の目的はほぼ達成しているといえます。
消費税減税についての考察
次に減税について考えてみます。
消費税は社会生活に密着した税なので、結果として低所得者の負担割合が大きいと言われます。
特に今日では所得格差が拡大しつつあると言われるなか、課税の不公平感が芽生えており、消費税減税は税率を下げるだけなので、人々にわかりやすく受け入れられやすいといえます。
しかし、例えば税率を10%から5%に減らすと、税収は10兆円減少します。
歳出が歳入を大きく上回っている財政の状況下で、減税を行うのであれば、それ相当の増税を何かで行うことになると思います。
しかし、法人税は国家間の競争(法人誘致)の観点から税率を下げざるを得ない状況であること、中小企業の優遇税制は既得権的になっており簡単には無くすことができないこと、大企業への追加的な課税も国外への移転を招きかねないことがあげられ、増税は難しいと考えます。
また個人への課税強化(所得増税)は低成長化で所得が増えない中では不満も大きく、格差が生じているという理由からの富裕層の課税強化も限定的であると考えられます。
これらより、単純に税率を引き下げるというだけの考え方は受け入れがたいと言わざるを得ませんし、実現性は低いと思います。
消費税は、導入されてから30年以上経過しました。
この間、問題視された不公平制度の是正への対応(簡易課税制度の縮小、事業者免税点の引き下げ、限界控除制度の廃止)を行い、今後はインボイス制度の導入が間近に控えています。
消費税が日本の税制の重要な項目となっていくことは明らかなので、十分に理解を深め対応していくことが大切と考えます。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 愛知 吉隆
- 1962年生まれ。中堅中小企業から上場企業に至るまで、約800社の税務顧問先の業務執行責任者として、税務対応のみならず、事業承継や後継者支援、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。
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