令和3年度の税制改正に向けた各省庁の要望が9月30日に出そろいました。
この「要望」は、今秋の本格的な税制改正大綱の検討前に発表されるもので、現状の税制の課題のうち“この数年で改正すべきもの”が総ざらいされるような内容となっています。
逆に言えば、この時点で挙がっていないものは検討の対象になりづらいものとなります。
税制改正のスケジュール
税制改正の一般的なスケジュールは以下のとおりです。
政府税制調査会での審議
昔からよく与党の“税制調査会”と混同されますが、こちらは内閣府の税制調査会になります。
ここで審議されている内容が、税制改正の基本になります。
各省庁要望のとりまとめ
毎年8月末日までに財務省に各省庁の税制改正要望が集まり、9月から10月にかけて取りまとめられます。
今年は9月末に出そろいました。
与党税制改正大綱のとりまとめ
10月から12月まで今度は“自民党税制調査会”と各省庁と財務省が詳細を詰め、“税制改正大綱”をまとめた上で年内には最終的な税制改正案として公表されます。
税制改正法案の公開
税制改正大綱の内容を受け、1月下旬から2月中旬の間に、財務省のホームページにおいて、税制改正の法案が掲載されます。
地方税法の法案は、総務省のホームページに掲載されます。
国会による承認
税制改正法案は、1月開催の通常国会により審議され、通常であれば4月1日に法律が施行されます。
財務省による税制改正資料の公表
6月から7月にかけて、財務省より改正税法の解説資料が公表され、毎年「改正税法のすべて」として書籍化されます。
コロナ禍のおける令和3年度の税制改正大綱の傾向
昔から今回のような首相交代のタイミングでは、短期的な視野に立った“わかりやすく効果が出そうな”“ウケの良い”税制改正に偏る傾向がありましたが、今回は様子が違うようです。
今回、第99代内閣総理大臣に就任した菅氏は、歴代最長の在任記録を作った安倍政権の路線継承を前提に総裁選を勝ち抜きました。
通常であれば、前政権の路線継承さえしていればよかったかもしれない局面ですが、いまはコロナ禍です。
したがって、短期的な経済の再生に効く解決策とともに、長期的な目線でその後の日本国内の課題解決(経済成長策や少子化・高齢化対策)をも視野に入れた税制の在り方を検討しなければならないという、非常に難しい局面に来ております。
各省庁からの要望を見ると、下記のような路線が柱になっています。
2.コロナ禍対策としての税負担の軽減
3.中小企業支援策の拡充
具体的には下記のようなものが確認できます。
・中小企業の積極的な設備投資、経営基盤強化、研究開発、所得拡大を支援
(中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制や所得拡大促進税制、中小企業軽減税率などの適用延長)
・中小企業の経営資源の集約化等の促進
・企業の機動的な事業再構築を促すための株式を対価とするM&Aの円滑化
・研究開発費の底上げ(控除上限の引き上げ)とクラウドサービスを活用した研究開発の促進
・ウィズコロナ/ポストコロナ時代のビジネスモデル変革の促進
・経済のデジタル化に伴う国際的な課税の見直し
・エコカー減税の延長
・住宅ローン減税の延長
・固定資産税の評価額見直しに伴う負担調整措置の延長ほか
・サテライトオフィス整備に係る軽減措置の創設(法人税や固定資産税)
また、この他に10月14日には(個別企業でなく)社会のデジタル化促進を促す税制の“創出”について甘利税制調査会長が言及しています。
加えて、“つながるDX”や“デジタル庁の恒久化”も発表されました。
5年以内の完成を目指している行政のデジタル化に合わせ、企業や行政間でシステムの円滑な接続や統一化が促されるよう、税制だけでなく予算と連携した施策が必要だということです。
古代ローマの徴税請負人の殺戮や、ロシア財政危機の引き金となった大規模な脱税、アメリカの独立戦争を引き起こした英国の失敗などを引き合いに出すまでもなく、徴税システムの是非は国の行く末を決定づける非常に重要なファクターです。
特にコロナ禍では中小企業支援策がその肝となることは言うまでもなく、国にも、そして対象となる中小企業の経営者にも生き残るための迅速な対応が求められます。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 税理士 浦井 耕
- TFP(現山田)コンサルティンググループ、中小会計事務所を経て株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングへ入社。ハンズオンによる管理制度構築支援や多数の企業再生支援に従事。2011年の東日本大震災以降は特に宮城県内の被災企業の再生支援を多く手掛ける。
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